フロリダでは死者数が4倍に増加、メタンフェタミンの脅威が米国で復活

メキシコからアメリカ国内へ安価なメタンフェタミン(結晶状覚せい剤)が流通している。(Photo by David Handschuh/NY Daily News Archive via Getty Images)

バージニアからアラスカまでメタンフェタミン(結晶状覚せい剤)使用が米国で急増中。オピオイド系鎮痛剤の過剰摂取問題「オピオイド危機」で揺らぐ地域を直撃している

アメリカから「オピオイド危機」の影が消えない中、もう一つの脅威が姿を現している。メタンフェタミン乱用がアメリカ国内の地方の田舎町で急増している。オクラホマ州からバージニア州、ケンタッキー州、フロリダ州へと拡大し、8月にローリングストーン誌のリポートでも述べたように、その脅威は既にアラスカ州まで北上しているのだ。

最初にこの医療用麻薬の乱用が顕著に高まったのは1990年代で、これは新たに考案された覚醒剤合成方法に起因していた。この方法であれば、素人であっても風邪薬と住宅用の洗剤を混ぜて加熱すると、ホームメイドの覚醒剤を合成できるようになってしまうことが発覚。しばらく時間を要したが、2006年に成立したCombat Methamphetamine Epidemic Act(※メタンフェタミンの流行を阻止する法令の意)によって、覚醒剤合成に必要な原料を含む風邪薬の店頭販売を制限し、アメリカ国内のメタンフェタミン製造所の数を16年ぶりに最小限まで抑え込むことに成功した。

しかし、メタンフェタミンを取り引きする市場が消滅したわけではなかった。新たな卸売業者が出現したのである。現在、アメリカ国内で流通しているメタンフェタミンの大部分がメキシコから入ってくる。メキシコの麻薬カルテルが所有する「巨大製造所」で大量生産しており、純度の高い製品を安価で販売しているため、これまでとは比較にならないほど大量の覚醒剤が出回っているのである。

これらの巨大製造所の多くはメキシコ最大の犯罪組織・麻薬カルテルといわれるシナロアが運営しており、その生産量は工業規模で、1日の生産量は数百ポンドにのぼり、その純度は95〜99%。法執行機関や警察が「クリスタル」や「アイス」と呼ぶ覚醒剤がこれだ。

「これまでよりも格段に純度が高く、しかも格段に安価なメタンフェタミンがこの地域に洪水のように押し寄せている」と、麻薬取締局の調査官リチャード・ソルターがオクラホマ州の現状をCNNに語った。オクラホマ州ではメタンフェタミンの過剰摂取がここ5年で2倍になっている。

8月にローリングストーン誌がリポートしたように、アラスカ州のメタンフェタミン系覚醒剤の過剰摂取案件は2008年から2016年で4倍に跳ね上がっている。同様に、フロリダで州でも、州の法執行機関の統括部が出した2016年の報告書によると、6年前に比べて覚醒剤の過剰摂取による死者数が4倍になっている。また、新たな報告書によると、バージニア州南東部ではここ2年間でメタンフェタミンの押収量が3倍になり、使用頻度の高い麻薬で2位のヘロインを追い越す勢いだ(1位は大麻)。

製造するメタンフェタミンの量が大量になっているため、麻薬カルテルは麻薬中毒で荒廃している地域以外に販売活路を広げる手段に着手していて、中西部や太平洋岸の北西部へと販売ルートを広げながら、東海岸やアメリカ南部での新たな市場開拓も行っている。アメリカ国境警備隊によると、ここ8年間でメタンフェタミンの押収量が約10倍に増えているという。

2010年の8900ポンド(約4トン)が、2018年の現時点で8万2000ポンド(約37トン)になっている。しかし、多くのメタンフェタミンがカリフォルニア州からアリゾナ州に広がる国境の警備が手薄な隙間をついてアメリカ国内に持ち込まれており、カリフォルニア州とアリゾナ州のここ10年間の押収量も10倍に跳ね上がっている。そうやって持ち込まれた覚醒剤は国内流通のハブであるアトランタなどに集められ、そこから地方の小さな町に流通する。この流通に一役買っているのが各地にある刑務所ネットワークと出所した犯罪者のコネクションだ。

Translated by Miki Nakayama

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