R&Bの今:本格ソウルへ回帰するシンガーたち

全米で注目されているR&Bシンガーのテヤナ・テイラー (Photo by Shutterstock)

情緒たっぷりに歌い上げる伝統的なR&Bシンガーがここ数年メインストリームからは姿を消していたが、現在本物志向のR&Bを求めるリスナーが多数いるという。 エラ・マイやテヤナ・テイラーのブレイクが示すR&Bシーンの変化とは?

ポップス史の過去50年間において、R&Bは他のどのジャンルよりもヴォーカルの魅力にフォーカスしてきた。歌声に底知れぬ悲しみを滲ませるオーティス・レディング、美しいファルセットで自らの脆さを曝け出したスモーキー・ロビンソン、唯一無二のスタイルで逞しさと情熱を同居させてみせたアレサ・フランクリン等をはじめ、無数のアーティストたちがその歌声で凌ぎを削り合ってきたR&Bは、ヴォーカルの魅力を最も際立たせる音楽として認識されるようになった。

しかし2000年以降、ネリーや50セント、そしてドレイク等に代表されるメロディックなフロウを武器とするラッパーたちが大きな成功を収めるようになると、R&Bのシンガーたちはヴォーカルスタイルをラップに寄せていくようになった。それによってチャートを制するアーティストも登場したが、その過程でR&Bならではの豊かなレンジや高貴さ、感情の高ぶりといった魅力は失われていった。「自分の魅力を抑圧しているように感じてた」作曲からプロデュースまでこなし、古き良きR&Bの愛好家でもあるタイ・ダラ・サインは、2017年のローリングストーン誌の取材時にそう語っている。「本物の歌唱力を持ったアーティストは決して少なくない。ただスポットライトが当たらないだけだ」

ラップのスタイルを取り入れようとしないR&Bのシンガーたちは、ラジオにおいてはアーバン・アダルト・コンテンポラリーというニッチなカテゴリーに押し込められてきた。ジャズミン・サリヴァンからアンソニー・ハミルトンまで、同カテゴリーにはジャンルも世代も超えて個性豊かなシンガーたちが名を連ねている。そのフォーマットにはメリットもあるが、一方でリスクもある。アーバン・アダルト・コンテンポラリー系のラジオ局で受けがいい曲は、メインストリームのアーバン系ラジオ局からは敬遠される傾向がある(前者の週の平均リスナー数は1000万〜1200万、後者のそれは3000万〜4000万)。ラジオでのプロモーションの専門家たちによると、週に約1億人のリスナーを誇り、あらゆるジャンルをカバーするTop 40系ラジオでR&B系の曲をかけてもらうには、メインストリームのアーバン系ラジオ局のサポートが不可欠だという。また同カテゴリーのアーティストはテレビへの出演機会も少なく、リーラ・ジェイムスやタンクといった代表格のシンガーでさえも、『The Tonight Show』や『Jimmy Kimmel Live』等の番組で目にする機会はほとんどない。そういった傾向の中で、情緒たっぷりに歌い上げる伝統的なR&Bシンガーは、メインストリームの舞台から徐々に姿を消していった。「そういったシンガーたちは、自分のスタイルを貫くか、それともニーズに合わせて自らを変えていくのか、どちらかを選ばなくてはならない」作曲家兼プロデューサーのトリッキー・スチュアートはそう語った。

しかしこの夏、本物志向のR&Bアーティストたちがメインストリームで曲をヒットさせるケースが目立った。テヤナ・テイラーは注目を集めた人物のひとりだ。歌声が月並みなヒップホップのビートの陰に隠れてしまっていた2014年作の『Ⅶ』とは対照的に、今年6月に発表された『K.T.S.E.』はざらついたサザン・ソウル(「イシューズ/ホールド・オン」)や、70年代初期のアル・グリーンを彷彿とさせる感傷的な「ゴナ・ラヴ・ミー」まで、伝統的なR&Bの魅力を前面に押し出していた。後者のルーズなビートは、カニエ・ウエストの手によるものだ。なめらかな質感のヴォーカルがもてはやされる昨今の傾向に抗うかのように、抑制を効かせた彼女の声は苛立ちを露わにする。「ゴナ・ラヴ・ミー」は通常であればアーバン・アダルト・コンテンポラリーにカテゴライズされるに違いないが、同曲はメインストリームのアーバン系ラジオ局でじわじわと支持を獲得し、先週には670万人のリスナーを獲得して21位にチャートインした。

Translated by Masaaki Yoshida

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