ジョーン・ジェットが語る、自身の半生とMeToo運動が音楽業界に浸透しなかった理由

―ドキュメンタリーのあるシーンで、かなり若い頃のあなたがある女性から取材を受けていて、彼女から結婚したり、子供を持ったりするつもりがあるかと聞かれて、あなたは「ない」と答えていました。質問した女性が言葉に詰まっていたのですが、その場面を今見てどんな気持ちですか?

あの場面はかなり滑稽に見えたね。あの女性、本当に緊張していたし、私を怒らせようとしていたみたい。だから逆に可笑しかったわけ。実際、あの質問には笑ってしまったし、私としては「私に何をしろっていうの? 子供を生んで面倒を見られないのがいいってこと? あなた、何が言いたいのかわからない。どういう意味?」って。彼女が私の答えを気に入らなかったのは、私が女だからだし、彼女の意見は「女は子供を産んでナンボ」ってことだと思う。あのシーンの彼女の表情はかなり面白くて、見ていて楽しかった。

明らかに、彼女は私に対して反感を持っていたけど、彼女の反感を深掘りするだけの時間もなかったし、その原因を見つける時間もなかった。彼女が今、私に取材していれば、彼女の反感の理由はすぐにわかると思う。そして「本当に聞きたいことを質問して。のらりくらり聞くのはやめて」って言うわね。

―ドキュメンタリーのハイライトはRiot Grrrl運動をあなたが手伝ったことです。ロールモデルの一人でいることをどう思いますか?

他の人たちが自分を見て、ある程度までその言動をモデルとして真似してくれるように、良い言動をしようと心がけるだけよ。観客の中に小さな少年少女がいると嬉しいし、彼らと話をするのが好きね。自分には子供はいないから、彼らと話をすると彼らのことをいろいろ学べるのよ。

―また、ローラ・ジェーン・グレース、カーステン・スチュワート、マイリー・サイラスがあなたへ賛辞を贈っています。LGBTアイコンの一人であることをどんなふうに受け止めていますか?

ある意味で、他の運動のアイコンになることと大差ないと思う。これまで何年間もLGBTコミュニティの人々が被ってきた虐待や嫌がらせを知っているから、みんなと一緒に立ち上がって「わかっている。どんなチャレンジか、どんな戦いか、ちゃんと理解している」と言うだけよ。



―あなたが「Crimson and Clover(原題)」をカバーしたとき、代名詞を変えなかったですよね。つまり女の子への愛を歌ったわけです。

その通り。それにあの当時、そういうことを考えなきゃいけなかった。もし歌詞を変えなきゃいけない状況だったら、きっとあの曲をカバーしなかったと思う。周りがどんな反応をするかはわからなかったけど、「とにかくやってみて、どうなるか見てみよう」って。あの当時、代名詞云々と指摘した人がいたかも覚えていない。きっと、そういう話題を話し合うことも、持ち出すこともの気まずかったんじゃないかな。

―でも、「I Love Rock ‘N’ Roll(原題)」では代名詞を変えていますよね?

その通り。あの曲では10代の男子も巻き込まないとダメだったから。女子だけじゃダメだったのよ。
それに今あの曲を演奏すると、みんな年齢を(17歳から)変えるか期待して待っているのが見える。まあ、私の解釈があれってことよ。

―あの曲をレコーディングした頃のあなたはとても若かったので。

ええ、年齢的にOKだった。今でも意識の部分ではあの頃と変わらないと思っているけど。

―ドキュメンタリーにはロックの殿堂入りの場面も登場します。当時の映像であなたは泣きたくないと言っていて、気丈さを見せています。常に気丈さを保つために何をしているのですか?

気丈でいたいわけじゃないよ。感情的になりやすい自分をわかっているし、泣き出すと言いたいことも言えなくなる。泣いてる自分を見られるのが怖いんじゃないのよ。コマーシャルで泣いて、直後に気分を切り替えることだって平気だもの。気丈に振る舞えるけど、私は意地悪な人間じゃない。それに、攻撃的な人間でもない。ただ、戦わないとダメなときはそうなるけど。

―MCAがあなたの活動を妨害しようとしても軽快にカムバックしました。あなたの中には闘志があるのでしょうか?

 自分で全部やって、ブラックハート・レコードを立ち上げて、「I Love Rock ‘n’ Roll」を出したら、みんな「うん、いいね。もう一度やってくれ。君をリスペクトしているよ。ただ、君を手伝う気はない」って感じだった。たぶん、そういう反応に慣れてしまっているんだと思う。だから、そういうことを戦いとは思わないし、そうすることが自分の仕事で、自分お仕事を続けているだけ。

―自分のキャリアを振り返ってみて、同年代の男性ミュージシャンと比べて、努力や頑張りを多く求められたと思いますか?

どうかな。男たちがどれだけハードに戦わなきゃいけないのか知らないから。男の方が楽に進めるのは確かだと思う。ほんのちょっと楽なだけね。きっと、みんなのイメージは、私が男世界の中にいて、そこから頭一つ飛び出そうとしていたって感じではないと思う。ほら、悪目立ちはしたくないのが普通でしょ。つまり、あの世界にい続けながら横柄さを持たないというバランスの良いところにいるって感じよ。だから、必死に反抗したとは思っていない。それにどんな状況であっても、私はこの道を進んだと思う。だってこの仕事が大好きだから。旅行するのは好きじゃないけど、演奏するのが本当に好きだし、この仕事は今でも心から楽しめるものだしね。

Translated by Miki Nakayama

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