韓国のヒップホップイベントに潜入、5000人規模のフェスが成り立つ現状

5000人規模のヒップホップイベントが成り立つ韓国

SKハンドボール競技場は公称キャパおよそ5000人の円形会場。同じくスポーツ用途で建てられた東京の代々木第二体育館とよく似た作りです。今回のイベントではアリーナ中央に正方形のステージが組まれ、それを360度囲むようにアリーナスタンディングとスタンド席が開放されていました。スタンディングで踊るもよし、スタンドで座って観るもよしという全自由席スタイル。客層は10〜20代がほとんどで、女性6:男性4くらいの割合でした。ステージ上には端にターンテーブルが2台あるだけ。生音を出す出演者はいないので転換0分で進んでいきます。1ステージ制だから“フェス”とは言うには語弊があるかもしれないけど、チケットからリストバンドに交換して入退場自由、入場ゲート脇にいくつかのフード出店がある、みたいなところは日本のフェスやライブイベントと変わりません。


「Genie Music Festival 2018 VER. VIVID」の会場となったオリンピック公園SKハンドボール競技場

序盤は、一番手からシンガロングとコール&レスポンスを沸き起こすHAONや、若い時の倖田來未そっくりな金髪BガールSAAYが盛り上げます。また、メロウなラップを得意とするOLNL、ジャジーな曲の多いJOOYOUNGも登場。彼ら2人がそうですが、ラッパーでもR&B調の歌モノをさらっと歌えたりそもそもとても美声だったりして、ヒップホップブーム以前から脈々と息づく韓国の歌謡曲文化が垣間見えます。そういうのがK-HIPHOPの面白いと思うところの1つです。


SAAY


JOOYOUNG

また、現地に行きたいと思った理由として、今回の5000人やそれ以上の規模のヒップホップのイベントが興行として成り立っている国勢にも興味がありました。ラッパー中心のイベントで“サービス映像”といわれる巨大スクリーンで演者を映すシステムが常時稼働しているだけでも珍しく、さらにそのサービス映像をVJと合致させて色味やエフェクトを変えるなど凝ってもいて、当該ジャンルのファンとして純粋にうらやましいと思いました。

現地に行ってわかった、アーティストと観客のライブスタイル

話をイベントレポに戻します。最初に「存在だけで大歓声」と呼べるレベルだったのは、女性R&BシンガーのSOMA。黒髪ショートにキャミワンピース、両手両足にガーリーなワンポイントタトゥーが入っている彼女。歩けばその方向の観客が黄色い声を上げ、まさに歌姫という印象。今回出た女の子はアイドルでなくアーティスト寄りなので、あまり愛想を振りまくタイプではなくクールな子が多かった。とはいえ客席に降りてファンカムにギリギリまで近付くサービスやセクシーな投げキスはありました。


SOMA

「SHOW ME THE MONEY 6」で一躍注目を集めたBLACK NINEは、イベント中盤になっても全然出ていなかったパワー系フロウで会場の空気を変えました。レゲエホーンに乗せて、ドスの効いた声でボースティングを畳み掛け、力強くコール&レスポンスを求めます。楽しさを求めてアリーナに降りる人続出。次のJUNOFLOもウェッサイ系だったけど、彼はイカツさとスマートさがいい塩梅で配合されている曲とフロウ。ジャパニーズ・ヒップホップのリスナーとも相性が良いんじゃないでしょうか。観客のスマホを取って動画を自撮りしてあげるとか、自分のレコードをアリーナに配るとか、よく喋るバックDJとの掛け合いも含めて、遊び心あふれるライブスタイルでした。


BLACK NINE


JUNOFLO

後半はHEIZE、DPR LIVE、Crush、AMBITION MUSIK(CHANGMO、HASH SWAN、KEEM HYO EUN)、Dok2 & The Quiett、Simon Dominicという出順。このあたりから各アーティストの知名度も高く、会場の隅まで行き届いた挨拶をするようになります。HEIZEの場合、「And July」から始まり「あなたをあまり知らずに」は場内大合唱。DPRも「Jasmine」「Luputa」「Martini Blue」すべてオーディエンスが歌いまくってて、一般浸透度の高いキラーチューンを複数持ってる人はこういったイベントで強い、というのはまあどの国でもそうですね。ちなみに「Luputa」はCrushが客演で参加してるから少し期待したけど、出てきて生コラボとはならなかったなあ。


AMBITION MUSIK

Crushの出番前、アリーナで前方に詰める人が押し寄せ、この日初めてモッシュピットが作られました。フィーチャリングしたりされたりの“客演王”としても知られるCrushの関わっている曲は、ポピュラリティがあって初見でも踊れる。人気ドラマ『トッケビ』のOST(劇中歌)になった「Beautiful」をアカペラで披露する場面から、アーバンなムードに染まった「Bittersweet」や「Chill」まで盤石の選曲。客足はCrushの時がピークでした。

続いて、CHANGMO、HASH SWAN、KEEM HYO EUNの3組は、Dok2 & The Quiett率いるレーベルILLIONAIRE RECORDSのサブレーベルAMBITION MUSIKのメンバー達として合同でパフォーマンス。HASH SWAN「Ma$himaro」やCHANGMO「One More Rollie」などでアップリフティングなノリを生み出して、Dok2 & The Quiettにつなげます。Dok2とThe Quiettは言わずとしれた韓国ヒップホップ界の重鎮であり、そのライブ・パフォーマンスも貫禄に満ちていました。ライブではお客さんは基本ガンフィンガーを掲げてノるスタイルなんですね。大好きなDok2の「1llution」も生で聴けてよかった!


Dok2 & The Quiett

トリを務めたのは、6月にアルバム「DARKROOM: roommates only」でカムバックしたベテランラッパーSIMON DOMINIC。その収録曲「roommates only」もやったし、横揺れと合唱で会場が一体となったのは「Comfortable」。やっぱり「SHOW ME THE MONEY」関連の曲は人気高いんだなーと思っていたら、Jay Park「MOMMAE」のリミックスが始まった途端にみんな絶叫……! 共同CEOを務めるAOMGのメンバー、Jay Parkの絶大な人気を痛感しました。そんなふうに当日は悠長に聴いてたけど、この4日後、SIMON DOMINICはシングル「Me No Jay Park」をリリースすると共にAOMGの代表を辞任しました。ワールドワイドに飛躍していくJay Parkといつも並べられるのは、曲名でそう主張したいくらい内心キツかったでしょうね。7時間にわたるイベントは、彼の名前を冠した代表曲「Simon Dominic」がこの日最大のアンセムとなって閉幕しました。

Coordinated by Sunny Kim

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