ダーティー・プロジェクターズが明かす、進化し続けるアンサンブルの背景にあるもの

―では、『Lamp Lit Prose』の話を。新作は前作とずいぶん違うサウンドに感じましたが、作曲のプロセスは違っていますか?

デイヴ:うーん、その違いは曲の書き方じゃないね、たぶん表現したかったフィーリングの違いかな。

―では新作は、どんなフィーリングを表したものなんですか?

デイヴ:このアルバムは春から夏にかけてのアルバムなんだ。桜の花が咲いて、新緑が芽生えて、そういう時期のアルバムで、恋をしているような楽観的で、希望を感じさせる、そういうフィーリングだね。

―それは何かの始まりみたいな感じ?

デイヴ:たぶん。そうかもしれないね。



―でも、フィーリングだけじゃなくて、使っている楽器も音楽の構造もかなり違うような気がしますが。

デイヴ:ボーカルハーモニーやホーン、ローズ、ウーリッツァーとかをふんだんに使っているところは同じだと思うけど、まずそれぞれのアルバムが持っているフィーリングが全然違うことが大事だよね。それはさっき言ったように表現したい感情が違うっていうのもあるし、前のアルバムでは、いろいろな要素が孤立しているように音を扱っていたのに対して、今回は有機的に融合しているような音の並べ方をしている。かつ、音の中でも楽器の木の感触や、ローズの鍵盤に人の手が触れている感じとか、人の声にしてもそれを取り囲む部屋の音の響きも活かしている。そういう音と音を繋ぐ要素を外しているか外していないかで、2作のサウンドのコントラストが出ているんじゃないかな。使っている楽器はほぼ同じだけど、その楽器が出せるトーンがいろいろあるなかで、どのトーンを活かすかっていうところで違いが出ているように思うね。

―なるほど。「有機的」で「繋がっている」のが新作の特徴ですよね。あとはリズムの扱い方に関しても全然違うような気がしますがどうですか? 僕はドラムやパーカッションの使い方がすごく面白いと感じたんですよ。ビートとしての役割だけじゃなくて、ある種メロディーとかリフみたいな使い方だと感じました。

デイヴ:そうだね。重ね方やポリリズムの展開のしかたはドラムっていうよりは、君が言うようなリフのような感覚があるね。でも、それは前作でもあったとは思うよ。この2枚のアルバムでは両方ともそんな部分がすごく強調されていると思うけど、違いがあるとすれば今回の方が踊れるよね。少なくとも自分は踊りたくなるよ。

―たしかに踊れるリズムであることは大きな違いですね。そのリズムなんですけど、ドラムセットで生み出すリズムじゃなくて、ドラムセットの一つ一つの太鼓がセパレートされてて、別の人が叩いているみたいなリズムだなって思ったんです。フジロックでライブを観ましたけど、ドラマーがドラムセットで叩くのは大変ですよね、あのリズムは。

デイヴ:リズムのレイヤーで作っているから、普通のドラムによる構造とは違うね。だからドラマーのマイクはそれをすべて覚えたうえで、それを自分のドラムセットの中に割り振っていたし、そのうえドラムパッドも使わなきゃいけない。それができるのはすごいよね。

―そのリズムって、ドラマーが叩く前提で作ってます? それともライブのことは全く意識してない?

デイヴ:全く考えてない(笑)。でも、マイク(・ジョンソン:現在のドラマー)は今回これだけ叩けているんだから、次はもっと行ける気がするね。

Dirty ProjectorsPhoto by Jason Frank Rothenberg

―過去のダーティー・プロジェクターズの作品でも、ポリリズムを使った面白いリズムはたくさんあったし、踊れるものもありました。でも、今回は低音があまり強調されてなくて、ドラムセットで言えば手で叩く高音の部分がメインだった気がします。でも、低音は少ないのにすごく面白いリズムだから踊りたくなるみたいな感じで。そのリズムの軽さみたいなものがこのアルバムの特徴かなと。

デイヴ:君はドラマーなの?(笑)。僕の音楽にとってはリズムが全ての基本だし、根幹だからね。そこをあれこれ考えて、いじるのが好きなんだ。ドラムだって他の楽器と同じようにアレンジのしかたはいくらでもあるわけだよ。ドラムのどこを密にして、どこを薄くするかによって、聴き手に与えられるフィーリングが全く違うものになる。たしかにリズムのベンドをして、低音域を減らして、上のほうをもっと活かすっていうアレンジを今回はかなりやったね。それによって醸し出されるフィーリングは低音が活きている時とは全く別のものになる。上が活きていることで、その感覚がフィジー(ふわふわ)になったんだよね。

ーリズム以外でも変わったところはあって、たとえば、「Break-Thru」はペダルを使ってちょっと音程が外れたような音を入れてますよね。でも、その外れていることが正しい外れ方っていうか、そのサウンドが生むフィーリングが面白かったんです。

デイヴ:それはウーリッツァーだよね。デジテックのワーミ―ペダルを通してウーリッツァーを弾くとああいうクレイジーな感じになるんだよね。

―西洋音楽的なチューニングとは違う音っていうのも曲のコンセプトにあるのかなって思ったんですけど、どうですか?

デイヴ:僕としては、正しい(チューニングの)音があるとしたら、外れたところから上がりながらその正しい位置に向かっていくような感覚を楽しんでたって感じかな。僕はマイクロトーン(微分音)の世界にもいたいとは思ってるからね。そうやって聴いてくれる人がいるのは嬉しいね。ローリングストーンみたいなクラシックなロックメディアでこんな話をやっちゃうの、僕は好きだよ(笑)。

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