ジミヘン『エレクトリック・レディランド』発売50周年記念ボックスセットの内幕

「5.1ミックスを行った発端は『ジミだったらどうしただろうか?』と考えたことだった」と、クレイマーが説明した。「5.1のパン用のジョイスティックを持っているのだが、オリジナルのステレオ・ミックスを聞いたあと、『ステレオのミックスでこれを使っていたな。じゃあ5.1にするために、左から右、前から後ろ、ズームと素早く動かしてみようかな』と思ったわけだ。ジミが生きていたら、頭の中で騒々しく聞こえるあのサウンドに興奮したはずだよ。きっと『そうだよ、これだよ、やってくれ。音をくるくる回してみてくれ』って言ったと思う」。

ヘンドリックスと一緒に作ったオリジナル・ミックスに忠実なサウンドを保つために一生懸命作業を行ったのだが、新しいミックスを聞いたリスナーはいくつか新たな要素を見つけるだろうと、クレイマー本人が教えてくれた。「オリジナルよりもクリアで深みのあるサウンドになっている」とクレイマー。「リスナーは全体像がもっとクリアに見えるはずだ。音の層の下層部にある楽器の音がはっきりと聞こえてくるからね。ジミが弾いたリズムギターや、バックコーラスの上にのっている些細なサウンドとか、パーカッションなどが、はっきりと姿を現すよ。だから、スタジオでバンドの演奏を聞いている感覚になるんだ」。

アウトテイク音源を集めた「Electric Ladyland: The Early Takes(原題)」には、1968年に滞在していたマンハッタンのドレイクホテルで、ヘンドリックス自身が私物のTeacのテープレコーダーを使って録音したオープンリール・テープのオーディオが収められている。初期の「ヴー・ドゥー・チャイル」、「ジプシー・アイズ」に加え、オリジナル盤に収録されなかった「Angel(原題)」と「My Friend(原題)」、更にまだ「At Last … the Beginning」というタイトルだった「ザ・ゴッド・メイド・ラヴ」の初期バージョンも収録。「彼は本当に静かに作っていたね」と、笑いながらクレイマーが言った。「ホテルの部屋の空気が手に取るようにわかるもの。ささやき声に近い感じで歌っている。何故かって? 隣の部屋の人たちを起こしたくなかったんだよ。だからジミは『これが“エレクトリック・レディランド”だ。君は行ったことがあるかい?』とささやく。とても暖かくて、非常にプライベートな雰囲気だ。そして突然、電話が鳴る。フロントからの電話で、彼が腹を立てる様子が声のトーンにはっきりと出ていて、最高だね」と。

このボックスセットには、ヘンドリックスがニューヨークのサウンド・センターとレコード・プラントで行ったセッションも収録しており、その中には未発表曲「Angel Caterina(原題)」と「Little Miss Strange(原題)」も含まれる。この2曲ではスティーヴン・スティル、ヘンドリックスのバンド・オブ・ジプシーズ、バンドメイトのバディ・マイルズが登場している。また、「ロング・ホット・サマー・ナイト」の別バージョンもあり、この曲ではヘンドリックスがドラマーのミッチ・ミッチェル、ピアニストのアル・クーパーと共演している。「まず未加工のデモから始め、未加工のマスター音源を1~2本聞いて、最後にマスター音源を聞いたよ。こうすると曲全体に流れる横糸が掴めるんだ」と、クレイマーが説明してくれた。


『エレクトリック・レディランド』を紐解くエディー・クレイマー

ライブ音源ディスク『Jimi Hendrix Experience: Live at the Hollywood Bowl 9/14/68』には、近年見つかった2トラックのサウンドボード音源が収録されている。これはトリオがロサンゼルスで行ったライブで、3枚のアルバムからの楽曲に加えてクリームの「サンシャイン・ラヴ」をカバーしている。「あのコンサートで、彼は会場の観客を心配していた」とクレイマー。「あの頃はステージの前に池があった。観客が興奮すると、みんな池に飛び込んでジミに近付こうとするわけだよ。すると彼は『ダメだ、ダメだ』と観客を抑えようとした。彼は怖がっていたよ。水と電気が合わさると良い結果は生まれないからね。会場のファンたちに『池から離れてくれ、お願いだ』と、ステージの上から頼んでいたよ」と、笑いながらクレーマーが語った。「その混沌とした様子は簡単に想像できるよね。1968年のハリウッド・ボウルで起きたカオス。笑っちゃうよ」と。

クレイマーは、そんなカオスですらヘンドリックスのパフォーマンスには影響しなかったと付け加えた。芝居がかった言い方で「いいや、ものすごい騒々しさだったし、ジミは大騒ぎだったよ」とクレイマーが言った。

Translated by Miki Nakayama

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