─映画『レディ・バード』の中に「“love”と“pay attention(関心を寄せる)”は似ている」というセリフがあり、小説『ファーストラヴ』には「愛とは見守ること」という記述があって、どちらも感銘を受けたのですが(笑)、それで言えば、安田さんのお母さまも、岩男の母親も同じ「愛」かもしれないですね。安田:確かにね、岩男の母の場合はエクストリームだったけど(笑)。
─では、岩男のアイリーンへの思いはどこから「愛」だったのでしょう。そもそも「愛」だった瞬間はあったのでしょうか。安田:少なくとも、気持ちが通い合う瞬間はありました。例えば、初めて2人が結ばれたときには愛があったのかもしれない。それがいつの間にか所有欲や憎悪に変わってしまうように、愛を持続させるのは難しい。
─僕が岩男の愛を感じたのは、アイリーンにお金を渡して「フィリピンへ帰れ」というシーンでした。あのときに岩男はようやくアイリーンへの、あるいは自分自身への執着から解放されたのではないかと。アイリーンを手放す瞬間、諦める瞬間に愛が生まれた気がしました。安田:ああ、そうですね。あのシーンは確かに「愛」でした。そこでも岩男がアイリーンに「お金」を渡すシーンが描かれているんだけど、そのお金はさっきの「おまんこ」のシーンとはまったく意味合いが変わってくるじゃないですか。そういう対比を持ってくるところに映画として痺れましたね。
「俺のそばにいろ」「おまんこさせろ」ではなく、「帰れ」に愛が宿る。そこに気づけた岩男は、短い一生でしたが、最後の最後に愛を知ることが出来たのかもしれない。自分を振り返ってみて、そういう「愛」を誰かに注げているか……そんなことまで考えさせられる『愛しのアイリーン』は、本当とてつもない映画ですね。
©︎2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)『愛しのアイリーン』
監督:吉田恵輔
配給:スターサンズ
2018年9月14日より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
http://irene-movie.jp/