スピリチュアライズドのジェイソン・ピアース、"最後のアルバム"と完璧主義者の苦悩を語る

ー最後のアルバムになるかもしれないとおっしゃっていたそうですが、それほどの労力が必要だったのでしょうか?

ジェイソン:それは、どちらかといえば作り始めの時に感じたことなんだ。自分自身がこれ以上にアルバムを作ることが想像できなかった。音楽を作ることは大好きだけれど、アルバムを制作するとなると、全てを美しく作りたいと思ってしまう自分の性格もあって、それがわかっているんだよ。だから、考えただけで疲れてしまうんだ。歳を重ねると、アルバムを作り始めると何が起こるかはわかっている。新しい経験では到底ないし、どのゾーンに自分が入っていくかが安易に想像できるようになってしまうんだよ。だから、アルバムのような長い作品を作るためには、自分にとって新しい方法を見つける必要があるんだ。

ー今はどう感じていますか? 

ジェイソン:アルバムを作り終えた今、やっぱりまたアルバムを作る前のモチベーションに戻っているかもしれないな(笑)。自分にとって何か新しい経験にならない限りは、もう作りたいとは思えないかもしれないね。

ーあなたにとってバンドによる演奏とコンピューター・ミュージックの決定的な違いはどこにあると感じていますか?

ジェイソン:バンドの方が、やはり人間味は出てくると思うね。他のミュージシャンのエナジーや熱意をプロセスの中で感じられるから。だからプロセスがより楽しい。それは、一人で制作するのとは全く違う世界。それに比べてコンピューターは、自分にコントロールがある。このコントロールは、ロックンロールの場合は、敢えて避けられるもので、最初に生まれるエナジーが大切なロックンロールにとっては、これは反発するものになる。しかし、ロックンロールは若者のための音楽だと僕は思うんだ。愚かさ、傲慢さというものは、若者がもってこそだと思う。過ちがマジックを生むこともあるしね。

ー逆にコンピューター・ミュージックに挑戦したことで、思いもよらない収穫みたいなものはありましたか?

ジェイソン:思いもよらない収穫だらけだったよ。すべてがアクシデントだったとも言える。ベスト・ミュージックというものは、ミスやアクシデントから生まれるものだしね。多くの人は、自分が持っているアイディアのみで良いものを完成させることは出来ないと思うよ。天才的なミュージシャンでさえ、幸運や偶然のおかげで素晴らしい作品を作ることが出来たアーティストがほとんどだと思うね。



ーセルフ・レコーディングする上で最も気にかけたことはなんでしょうか?

ジェイソン:なんだろう……。レコードを制作する時は、OCDのようになってしまうからわからない(笑)。この年になっても、とにかく良いレコードを作りたかった。初期のレコードとは違って、ここまで作品を出していると、前ほどの期待やプレッシャーはなくなってくる。でも、だからといってただレコードを作るのではなく、本当に良い作品を作ることに没頭していたね。だから、完成して心からホッとしているよ。とはいえ、今でもレコードの小さな部分に棘が刺さっている感じがするような気になっていたりもするんだけれど(笑)。セッションのように聴こえるサウンドを作り出すことは心がけていた。さっきも話したけど、ギル・エヴァンズのようなレコードが目標ではあったから。他のミュージシャンが楽器をプレイしているのを聴いて、それに合わせて音を演奏しているような、そんな感覚を作り出すことが大切だったね。

ークラシックのレコードから弦楽器のパートを生み出していったようですが、その手法はある意味で、すごくヒップホップ的だと思います。これまでにもそうした手法は用いていたのでしょうか?

ジェイソン:もちろんあるよ。クラシックのレコードからのサウンドをそのままは使えないけど、自分の中で作りたい音がイメージされ、それを妥協せず自分なりに作る。予算があれば、他のミュージシャンを迎えるのがもちろん一番良いんだけどね。そのミュージシャンのパーソナリティが音楽にもたらされるし、彼らのミステイクがまた面白いものを生み出すし。

ーポップという言葉が適しているかはわかりませんが、新作はいつものあなたの音楽よりも整然としていて、聴き手が入り込みやすいように感じました。この親しみやすさは意識したものだったのでしょうか?

ジェイソン:親しみやすさはもちろん良い要素でもあると思う。でも、僕自身にとっては、何かを提供するのであれば、スペシャルなものを貢献したいという気持ちの方が強い。音楽を作り始めると、病気のように没頭し、自分の世界に入る。親しみやすさというよりは、自分に誠実であることの方が自分にとっては大切なんだ。

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