ジャニス・ジョプリン、『チープ・スリル』に関する10の知られざる真実

5. クライヴ・デイヴィスはビッグ・ブラザー・バージョンの『サマータイム』をリチャード・ロジャースに聴かせたが、評価は低かった。

1968年のある日、リチャード・ロジャースが、同社社長のゴッダード・リーバーソンとランチしながら次のミュージカルのための資金集めについて話し合うため、ニューヨークにあるコロンビア・レコード本社に立ち寄った。デイヴィスはブロードウェイの大物にうやうやしく近寄り、自己紹介した。軽い会話を交わしながらデイヴィスはロジャースを自分のオフィスへと招き入れ、ビッグ・ブラザーの『サマータイム』のテープを聴かせた。彼は、年上のロジャースが、オペラ『ポーギーとベス』の有名曲のフレッシュなバージョンを高く評価するだろうと思っていた。

ロジャースは腰を下ろし、デイヴィスは再生ボタンを押した。「ロジャースは無表情で曲を聴いていた」と後にデイヴィスは回顧録に書いている。「曲が終わった時も、彼はひとことも口に出さなかったので、私は落胆した」 演劇界のロジャースに先入観なく聴いてもらうには、『サマータイム』はやや彼の分野に近すぎると思ったデイヴィスは、全く方向を転換してみた。「次に『心のカケラ』を聴かせたが、これが失敗だった」という。



『オクラホマ!』や『サウンド・オブ・ミュージック』、『王様と私』などのミュージカルを手がけた作曲者は、90秒も聴かないうちにテープを止めるように言った。ロジャースは「曲は理解できないし、どうしてこのような曲が受けるのかわからない」とまで言ったという。「ジャニスの歌を聴いたロジャースは、なぜ彼女に才能があると思う人間がいるのか理解できないようだった」とデイヴィスは言う。困惑したロジャースは、「私に作曲のやり方を変えろというのか、或いはブロードウェイ・ミュージカルはロック・ソングでなければならない、というのなら、私のキャリアはもう終わりだ」とデイヴィスに告げた。ロジャースは新しいサウンドを全く受け入れない人間だと悟ったデイヴィスは、慌てて話題を変えたという。

6. アルバムには『ハリー』という短いジャム・セッションや米国国歌も収録される予定だった。

『チープ・スリル』の初期のアルバム・ジャケットには、ターバンを巻いた男性の吹き出し中の「ART: R. CRUMB」という表記の下に、「HARRY KRISHNA! (D. GETZ)」の文字がかすかに読み取れる。ジョン・サイモンによる最初のミックスでは、この短い曲が収録される予定だったが、あまりにも雑な曲だと懸念するレーベル幹部の介入により、収録が見送られた。また、『ハッピー・バースデー・トゥ・ユー』も収録予定だったが、コロンビアの幹部に却下されたという。



しかし、別のスタンダード曲のアレンジ・バージョンを退けたのは、サイモン自身だった。ギタリストのサム・アンドリュースは、プロデューサーのサイモンに米国国歌のランスルーをアピールしたが、即却下されて落ち込んだ。「それから約1年後、ジミ・ヘンドリックスがインストゥルメンタル・バージョンを演奏した」と、エリス・アンバーンが自著『Pearl: The Obsessions and Passions of Janis Joplin』の中で述べている。「ジミ・ヘンドリックスよりも1年前にジャニスが国歌を歌っていたら、どんなに画期的だっただろう」

7. オリジナルのアルバム・ジャケットには、ベッドで撮影したメンバーのヌード写真が使われていた。

「メンバー全員と寝たわ」とジョプリンはかつて、ビッグ・ブラザーのメンバーについて語っている。「みんな私の家族のようなもの。だからみんなとやったの」という。そういう意味では、ベッドでのメンバーを描写した当初のジャケット・コンセプトは、完璧なもののように思われる。しかしメンバーは、コロンビア・レコードのクリエイティブ・ディレクターだったボブ・ケイトーのニューヨークにあるオフィスを訪れた時、ヒッピーの仮宿泊所をイメージしたジャケット・デザインを見て困惑した。LSDや雑多な装飾やピーター・マックス風のデザインをごちゃ混ぜにした広告のようなデザインだった。ひと目見たジョプリンは「こんなのボツよ!」と叫んだ。実際に彼らはそのデザインを却下し、ヒッピーの中心地だったヘイト・アシュベリーの本物の雰囲気を出すために、メンバーは着ているものを脱ぎ捨て、スタジオ周辺にあったさまざまな物で大切な部分を隠してポーズを取った。「僕らは服を全部脱いでベッドへ飛び乗り、カメラに向かって微笑んだんだ。とても愉快な朝だった」と、サム・アンドリュースはアンバーンに証言している。写真には、マルボロのカートン、ジョプリンのサザン・カンフォートの瓶、ヘロインを熱するために使われたであろうキャンドルなどが、メンバーの裸体と共に写り込んでいる。写真はレーベル幹部が許可するはずもなく、却下された。最終的に、Zap Comixを創刊したカルト・カルチャーのヒーローで、オリジナルの裏ジャケットをデザインしたR・クラムによる漫画が採用された。

Translated by Smokva Tokyo

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