映画『寝ても覚めても』監督とtofubeatsが語る「最高の恋愛小説」映画化への挑戦

映画『寝ても覚めても』監督・濱口竜介(右)と、音楽を担当したtofubeats(左)(Photo by Takanori Kuroda)

第71回カンヌ映画祭のコンペティション部門に出品された映画『寝ても覚めても』が、9月1日(土)より全国公開される。本作の監督を務めた濱口竜介と、今回映画音楽を初めて担当したというtofubeatsの二人に話を聞いた。

本作は、2010年に出版され第32回野間文芸新人賞を受賞した柴崎友香の同名小説を映画化したもの。瓜二つの顔を持つ2人の男性の間で揺れ動く、1人の女性の葛藤を描いたユニークな物語で、ミステリアスな青年の「麦」と、爽やかな青年の「亮平」を東出昌大が“一人二役”で好演している。また、主人公の泉谷朝子役に抜擢されたのは、これが映画初ヒロインとなる唐田えりか。中盤に驚くような行動を取る難しい役どころをフレッシュに演じ、画面に鮮烈な印象を残す。さらに、エンドロールで流れるtofubeatsによる主題歌「RIVER」が、ラストシーンの余韻を観るものにさらに深く刻み込むなど、なんとも忘れがたい作品に仕上がっている。

監督は、神戸を舞台にした前作『ハッピーアワー』や、東日本大震災をテーマにした『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』の、いわゆる「東北記録映画三部作」でメガホンを取った濱口竜介。本作でも東日本大震災を描いており、日常と非日常の危うい境界線を、人と人とが恋に落ちた時の瞬間と見事に重ね合わせている。

そこで今回ローリングストーン ジャパンでは、映画サントラに初挑戦したtofubeatsと濱口監督の対談を敢行。楽曲制作のエピソードはもちろん、本作への思い入れなど語り合ってもらった。

──監督は、柴崎友香さんの同名原作を「最高の恋愛小説」と絶賛されていますよね?

濱口:こんなにむき出しに、愛している人の気持ちが変わってしまう小説ってなかなかないと思うんですよ。それは唐突であるようで、実はリアルでもあって。というのも恋愛って、夢見るような体験であると同時に、「他者性」のようなものが露わになるじゃないですか。そこをこの小説は、恐ろしいくらいに描き切っている。そこに強く惹かれたんですよね。しかもそれは、「日常の中に入り込んでくる非日常」といった、自分が表現したいテーマとも似通っていたので、映画化させていただくことにしました。


©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

──映画化するにあたって、どんなことに気をつけましたか?

濱口:300ページ以上ある原作ですので、それを120分の中で再現するのは土台無理じゃないですか。なので、まずは「瓜二つの顔を持つ男の間で、揺れ動く朝子の気持ち」という原作の核の部分だけを取り出し、それ以外の部分は無理に原作に寄せないようにしましたね。カメラを使った映画ならではの切り口、語り口を大事にしたというか。

それと、小説では朝子の物語と並行する形で、世の中の動向が描きこまれているんですね。時代的に、アメリカで起きた同時多発テロだったり、千葉で起きた比較的大きな地震だったり。そういう構造が原作のリアリティにも繋がっていたので、そこは引き継ぎたいと思って東日本大震災を映画の中に登場させました。


©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

──tofuさんは本作を見てどんな印象を持ちましたか?

tofubeats:いやあ、本当に不思議な余韻が残る映画ですよね。主人公の朝子なんて、男からすると「勝手だなあ」とか、「なんだやっぱり顔かよ!」とか思う部分も結構あるのだけど(笑)、なんていうか、理屈じゃ割り切れないようなことをしてしまうのが人間でもあるし……。観ていると、自分の中にある「理性」とか「客観性」ってどんなものなのかな、みたいなことも改めて考えさせられましたね。

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