サマソニLIVEレポ「現在進行形のノエル・ギャラガーが示したもの」

ノエル・ギャラガー(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

夏の終わりを告げるような、少し肌寒いくらいの海風が吹く夕刻。辺りが少しずつ暗闇に包まれ、頭上には半月がぽっかりと浮かび、静かにこちらを見下ろしている。サマソニ東京初日(8月18日)のMARINE STAGEでトリを務めるのは、我らがノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ。昨年11月にリリースされたサード・アルバム『フー・ビルト・ザ・ムーン?』を引っさげ、元オアシスのゲム・アーチャーとクリス・シャーロックが復活した現在の編成では初の日本公演だ。

ゲムとクリスに加え、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの司令塔ケヴィン・シールズの元ガールフレンドであり、自身もル・ヴォリューム・クールブというソロ・ユニットで活動しているシャルロット・マリオンヌや、ザ・ズートンズのラッセル・プリチャードなど個性派メンバーがズラリと並ぶステージ。まずは新作の冒頭を飾る“Fort Knox”で幕を開け、その後も立て続けに4曲をアルバムの曲順通りに演奏していく。黒地に白いドット柄のシャツに身を包んだノエルは以前よりも体重を絞ったのか、グッと精悍になった印象。黒人女性ヴォーカルと並んで歌う姿は、『スクリーマデリカ』(1991年)をリリースした直後のプライマル・スクリームのパフォーマンスを彷彿とさせる。

ケミカル・ブラザーズとノエルがコラボした1997年の楽曲「Setting Sun」を、グッとヘヴィにダウンテンポしたような「Fort Knox」や、「Tレックス meets ローリング・ストーンズ」とでも言うべきブラスロックの「Holy Mountain」、力強く踏み鳴らされるキックと歪んだオルガンがスリリングな「Keep on Reaching」、そしてビートルズの「Tomorrow Never Knows」をアップデートしたかのような「It’s a Beautiful World」(途中、シャルロットがフランス語で電話をかける“小芝居”がキュートだった)が、バックスクリーンに映し出されるドラッギーな映像とともに空へと溶けていく。

正直なところ筆者は、これら『フー・ビルト・ザ・ムーン?』の楽曲を音源で聴いた時には、その良さがあまりよく分かっていなかった。同じ時期にリリースされた、弟リアム・ギャラガーの初ソロアルバム『アズ・ユー・ワー』が、売れっ子グレック・カースティンらをプロデューサーに迎えてアップリフティングなポップ・アルバムを作り上げていたのに比べ、明快なカタルシスを避け同じフレーズを延々と繰り返す兄ノエルの楽曲たちに、まるで『ビー・ヒア・ナウ』の頃のオアシスのような“冗長さ”を感じてしまったのだ。

が、今目の前で繰り広げられているライブ・パフォーマンスを観るにつれ、単に自分がノエルの“進化”について行けてなかっただけだったことを、まざまざと思い知らされる。彼は今、エヴァーグリーンなポップソングを作ることよりも、めくるめく壮大なサイケデリアを展開させることに全身全霊をかけているのだ。現に、じわじわと熱を帯びながら繰り返されるフレーズの応酬は、ただただひたすら気持ち良く、飽きるどころか「このまま永遠に続いてほしい」とさえ思ったほどだった。

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