カマシ・ワシントンからMeTooまで、アメリカにおける21世紀ジャズ評論の革命

#MeTooムーヴメントを通過した現代における、女性アーティストたちのあり方

ー本書はセシル・マクロリン・サルヴァント、エスペランサ・スポルディング、メアリー・ハルヴォーソンなど、現在のシーンを代表する女性アーティストたちを取り上げています。#MeTooムーヴメントを通過した現代において、ジャズにおける女性アーティストたちのあり方はどう変わりつつあると思いますか?

ジャズに限ったことではありませんが、#MeTooムーヴメントはシーンを大きく揺さぶりました。ジャズの教育機関は非常にパーソナルで、優れた教育を受けようとする生徒は、閉ざされた空間で講師と2人きりの時間を過ごすことを余儀なくされますが、そういう状況ではセクハラやパワハラの問題が発生しやすくなります。生徒の講師に対する信頼につけこもうとする、そういう人物はやはり存在するのです。現在様々な機関が、そういったケースを未然に防ぐ方法を模索していますが、この問題は極めて複雑で、抜本的な解決策が講じられるのはしばらく先になるでしょう。目の届かないところで性差別や偏見は確かに存在しており、与えられるべき機会が奪われてしまっています。

ジャズの世界には明るい兆しも見られます。現在シーンには、驚くべき才能をもった女性アーティストが次々に登場しています。かつて女性アーティストは「女にしては悪くない」などと評されることが少なくありませんでしたが、彼女たちにはそういう人々を黙らせる問答無用の実力があります。女性アーティストに対する偏見は、つい最近まで社会の隅々にはびこっていました。Time’s Upや#MeTooムーヴメントは、「もう我慢の限界」という女性たちの思いを体現しているんです。

ー本書は『エクスポージャー』のレコーディング過程を生放送したスポルディングや、同じく作品の制作過程をドキュメンタリータッチで綴ったスナーキー・パピーに言及しています。現代のアーティストたちはメディアを積極的に活用することで、ジャズに対するどこか硬派なイメージを変えつつあるように思います。

ジャズは至近距離で楽しむのが一番だという点は、今も昔も変わりません。ここでいう「ジャズ」とは、優れたミュージシャンたちの相互作用による即興演奏を伴う音楽のことを指しています。エスペランサの『エクスポージャー』プロジェクトや、スナーキー・パピーのオンラインドキュメンタリー、あるいはジェイコブ・コリアーがやっていることは、自宅でゆっくりと楽しんでもらうためのものです。安っぽく見えないよう工夫しつつ、作品の制作過程をファンに見てもらうことで、自分たちの音楽をより深くしてもらおうというわけです。彼らのプロジェクトは大きな話題となりましたが、それはオーディエンスが彼らの音楽に反応したからに他なりません。

ー10年後に『Playing Changes』のアニバーサリー版が出ることになれば、あなたは新たに前書きを寄せることになると思いますが、どういった内容を記すことになればいいと考えていますか?

現在盛り上がりを見せているロンドンのシーンがどこに向かったのか、ということですね。(サックス奏者の)ヌビア・ガルシアや、(ドラマーの)ユセフ・デイズがどういう存在になっているのか、個人的にもとても興味があります。シーンに登場したばかりの彼らの動向を追うがあまり、締め切りに遅れそうになりましたからね。

同シーンで特に注目しているのは、シャバカ・ハッチングスです。音源とライブの両方で抜きん出た実力を示している彼は、まさにシーンをリードする存在です。(ニューヨークで開催された)去年のWinter Jazzfestで観たガルシアのライブも素晴らしかった。情熱的な演奏はもちろんのこと、カリスマ性や存在感など、彼女はバンドリーダーに不可欠な要素をすべて備えています。ハッチングスがそのリズム感でオーディエンスを熱狂させるエンターテイナーだとしたら、ガルシアはより伝統的なジャズミュージシャンということになるでしょう。どちらも稀有な才能を持った、既存の枠に当てはめることのできないユニークな存在です。アニバーサリー版が出る際には、彼らがここからどこに向かったのかを記すことになるでしょう。

またアヴァンギャルドなジャズとポストクラシカルを結びつける(マルチ奏者で作曲家の)、タイショーン・ソーリーやヴィジェイ・アイヤーの動向にも注目しています。現在のシーンには、70年代や80年代には見られなかった勢いがあります。それはまだ始まったばかりで、タイショーンをはじめとする若いアーティストたちは、きっとこれから素晴らしい活躍を見せてくれるでしょう。

Translated by Masaaki Yoshida

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