カマシ・ワシントンからMeTooまで、アメリカにおける21世紀ジャズ評論の革命

21世紀における、ジャズと政治の新たな関係

ー同書は1980年代におけるウィントン・マルサリスの台頭を「レーガン時代のジャズ革命」と形容した、作家のデヴィッド・ハジューに言及しています。以降、ジャズはどういった形で政治と関わってきたのでしょうか?

チネン:本書は主にクリントン期からオバマ期、そしてトランプ政権初期のシーンを取り上げています。政治的背景について言及している部分は多くありませんが、本書の主なトピックであるカルチャーは、いつの時代も政治情勢を反映する鏡の役割を果たしてきました。特にオバマ期のレトリックと野心は、ジャズの美学と共鳴する部分が少なくありませんでした。(2016年の)国際ジャズ・デーに、オバマ元大統領がホワイトハウスで披露したスピーチは非常に印象的でした。異文化に目を向け、交流によって相互に成長していくという、バラク・オバマが実践したいちアメリカ国民としての姿勢は、ジャズという文化、そしてそこに生きる人々の価値観と見事にシンクロしていました。

現在の政治情勢がジャズのシーンにどういった影響をもたらすのか、それを見極めるにはまだ時間が必要です。しかしツアーに出るミュージシャンが入出国に関して思わぬトラブルを経験するなど、日常レベルで既に影響が現れ始めていることは事実です。人種などによって人々を隔てようとする動きは、寛容でコスモポリタンなアートフォームであるジャズの対極にあるものです。オバマ政権期だけでなく、部分的であれクリントン政権期にも、そういったジャズの美学に通じる価値観が存在していました。

(作家であり知識人の)アルバート・マレーに大きく影響されたウィントン・マルサリスから、彼が指揮を執る組織Jazz at Lincoln Centerに至るまで、ジャズの根本には民主主義に基づくアメリカ的価値観があります。それは現在も健在ですが、15年前に比べると少し影を潜めてしまっているのは事実です。その理由のひとつは、ジャズのそういった価値観が世に受け入れられるようになったためです。ケン・バーンズの『Jazz』(マルサリスがシニア・クリエイティブ・コンサルタントを務めたドキュメンタリー)は、その決定打となった作品でした。それでも現在のシーンの特徴や、活躍するミュージシャンたちのバックグラウンドに目を向ければ、ジャズが真にグローバルな音楽であることは明らかです。ユネスコのアンバサダーとなったハービー・ハンコックは、公の場でこれまでに何度もその点を強調しています。今やジャズはアメリカだけのものではないのです。

ードナルド・トランプが舵をとる今日のアメリカでは、ミュージシャンたちが現在の政治情勢に異を唱えることをまるで義務のように感じている節があります。

確かにそういうミュージシャンもいるでしょう。中にはそれが求心力に繋がっている人々もいます。ヴィジェイ・アイヤーや(トランペッターの)デイヴ・ダグラスは、ブッシュ政権を声高に批判していました。クリスチャン・スコットも政治意識の高いミュージシャンのひとりです。

しかし、すべてが政治に起因しているわけではありません。たとえば警察による暴力の問題は、オバマ政権期に深刻化しました。現在の頼りない司法制度のせいで、あの問題は完全に政治と結びつけられてしまっています。しかし(トランペッターの)テレンス・ブランチャードやクリスチャン・スコットなどが主張しているように、警察の暴力の犠牲者となるのが常に有色人種であることを考えれば、それは政治よりもむしろ文化における問題なのです。トランプ政権に対する批判的なムードが、ジャズのシーンに明確な変化をもたらしているとは思いません。しかし今後、そういった姿勢をはっきりと示すアーティストたちは増えていくでしょう。

Translated by Masaaki Yoshida

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