カマシ・ワシントンからMeTooまで、アメリカにおける21世紀ジャズ評論の革命

 カマシ・ワシントンの存在感、ケンドリック・ラマーとジャズの邂逅

ーこの上ないタイミングで実現したケンドリック・ラマーとのコラボレーション※や、評論家たちによる批判についても言及しながら、あなたはカマシ・ワシントンの躍進を正確かつ慎重に考察されています。彼に対して好意的でない人々も、その快進撃から何かを学びつつあると思いますか?

※カマシやグラスパー、サンダーキャットなど多くのジャズ・ミュージシャンが参加した、ケンドリックの2015年作『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』のこと

チネン:特筆すべきことがいくつかあります。カマシはバンドの存在感、技術、イメージ、その全てを磨く方法を熟知しています。彼は一流のサックスプレイヤーであると同時に、極めて優れたバンドリーダーでもある。(彼のアンサンブルである)ザ・ネクスト・ステップの一体感には目を見張るものがあります。またあらゆる発言や行動に、彼の揺るぎない信念が宿っているんです。その前向きな姿勢はオーディエンスを惹きつけ、両者の間に仲間意識を生んでいます。

彼のバンドメンバーたちは、音楽に対する情熱で分かち難く結びついています。ジャズには知的、洗練、そして難解というイメージがつきまといますが、彼らがもたらすカタルシスはそういったものをすべて無効化します。彼らはインディーロック、エレクトロニック、あるいはヒップホップなど、あらゆるタイプのフェスティバルにフィットします。彼の音楽には、普段まったくジャズを聴かないリスナーに訴える魅力があるんです。生まれつきの才能と思われがちですが、彼の作曲家/バンドリーダーとしての資質は、絶え間ない努力によって育まれたものなのです。

他のジャズのアーティストに比べて、彼はイメージ戦略やブランディングの面においても非常に意識的です。ブレインフィーダーのアーティスト、あるいは仕事を共にしたポップアクトたちとの交流の中で、彼は神秘性が大きな武器となることを学び、そのミステリアスな魅力を育んでいきました。パフォーマーとして圧倒的なカリスマ性を誇る彼には、もともとある種のオーラが備わっていたことも事実です。彼がステージに姿を見せるだけで、オーディエンスはその存在感に圧倒されるはずです。私はその点に、彼と(サックス奏者の)チャールズ・ロイドの接点を見出しています。両者は多くの点で異なっていますが、フロントマンとしての存在感とカリスマ性は共通しています。60年代から現在に至るまで、チャールズ・ロイドがそれを失ったことはありません。カマシ・ワシントンもそういった存在なのです。

ー同書における章のひとつでは、ソウルクエリアンズが残した功績と、ジャズとヒップホップとR&Bを融合させるロバート・グラスパーのような存在を結びつけています。彼やテラス・マーティンなどが追求するジャズとヒップホップの異種交配は、当時のネオ・ソウル系のシーンに端を発しているとお考えでしょうか?

チネン:そこにルーツがあるとは断言しませんが、ネオ・ソウル系のアーティストたちがそういったフュージョンの先駆者であることは確かです。彼らは非常に誠実なやり方で、異なるスタイルの音楽を融合させる方法を確立しました。あの章で引用されている(詩人で知識人の)故アミリ・バラカによるR&Bについてのエッセイには、「変わっていく普遍的なもの」という表現が登場します。同書を執筆する上で、私は「ブラック・ミュージック」という言葉以外で、(ディアンジェロの)『ブードゥー』やソウルクエリアンズのサウンドを表現する術を求めていました。彼のエッセイでその言葉を目にした時、まさにこれだと思いました。彼らの音楽にはジャズやヒップホップだけでなく、ソウル、ロック、ファンク、そして宗教音楽の影響までが見られます。彼らの音楽はジャズとヒップホップの融合と形容されがちですが、それは正確ではありません。グラスパーが追求しているスタイルにしても、そんな風に括れてしまうほど単純ではないのです。「変わっていく普遍的なもの」という表現は、その奥深い魅力を見事に捉えています。彼らは異なる要素を強引に組み合わせるのではなく、音楽のより根本的な部分に立ち返ろうとしたのです。

あれから何年も経ち、ミュージシャンたちはそういった音楽のリズム感を研究し、体得していきました。それらを最大限に活用したのはジャズのミュージシャンたちで、彼らは身につけた技術を自らのスタイルに落とし込んでいきました。J・ディラのプロダクションと、(ジャズドラム界の巨人である)トニー・ウィリアムスやエルヴィン・ジョーンズのスタイルを同じ目線で捉えるそういった世代のミュージシャンたちは、極めてユニークなリズム感を身につけています。

Translated by Masaaki Yoshida

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