女性解放運動、波乱続きの私生活、アレサ・フランクリンの生涯を振り返る

1980年、フランクリンはアトランティックを離れ、アリスタに移籍。そこでクライヴ・デイヴィスと組み、2年後ようやく努力が実った。ルーサー・バンドロスをプロデューサーに迎えた1982年の「ジャンプ・トゥ・イット」により、フランクリンは再びR&Bラジオのオンエアに戻ってきた。だが、クロスオーバーアーティストとしての完全復活は、1985年のアルバム『フリーウェイ・オブ・ラヴ』による。このアルバムで彼女は、ユーリズミックスやカルロス・サンタナといったアーティストとコラボレーション。彼女にとって最後のR&Bヒット曲となったシングル「フリーウェイ・オブ・ラヴ」は、MTV世代にも受け入れられた。「努力をしまず、プロデューサーとして成長できた自分に心からありがとうを言いたい」とは、1986年『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』のライナーノーツに記された彼女自身の言葉だ。

現代の音楽シーンにためらうことなく飛び込んでゆき、ポップミュージックでもヒットを連発したフランクリンは、ジョージ・マイケルやエルトン・ジョン、ホイットニー・ヒューストンらとコラボレーションし、次々シングルをリリース。自分に影響を受けた若手アーティストと共演するという方程式で成功を収めた。1998年には、彼女を心から敬愛するローリン・ヒルが「A Rose is Still A Rose」を彼女のために作曲、プロデュースしている。

だが、フランクリンはまたチャレンジ精神に満ちた人だった。1998年のグラミー賞授賞式でルチアーノ・パヴァロッティが出演できなくなった際、代役を名乗り出て「誰も寝てはならぬ」を熱唱。オペラ畑以外のシンガーで、この曲に果敢に挑むのは彼女ぐらいだろう。2012年のローリングストーン誌とのインタビューでもこのように語っている。「人々が望むものを提供しなくちゃいけない。お金を払って見に来ているのだから。その後で、たっぷり自分の好きなことをやればいい。だけど、ひとたびみんなの望みをかなえたら、そこに自分の歌いたいものを少し織り交ぜることもできるの。心をこめて演奏すれば、人々に受け入れてもらえるわ」



晩年のフランクリンはしばしば健康上の問題に悩まされ、レコーディングは一向に進まず、単発気味になった。2006年にレコーディングを始めた『A Woman, Falling Out Of Love』が、最終的に自身のレーベルからリリースされたのは2011年のことだった。2010年に予定されていたコンサートが中止されると、彼女が膵臓ガンを患っているらしいとのうわさが広まった。フランクリン本人はがん闘病接を否定し、腫瘍の摘出手術を受けたことを明かした。2018年にも医者から2か月間の安静を勧告され、コンサートを中止した。2017年11月、エルトン・ジョンが主宰する毎年恒例のエイズ基金コンサートが、フランクリン最後のパフォーマンスとなった。

それでも、フランクリンの声のパワーは決して衰えることはなかった。2014年には、アデルの「ローリング・イン・ザ・ディープ」をまるで最初から彼女の持ち歌だったかのようにカバーし、自身100曲目のR&Bチャートインを果たした(最後のアルバムとなった『グレイト・ディーヴァ・クラシックス』に収録)。「アデルは唯一無二のアーティストね」と、2012年のローリングストーン誌とのインタビューで語るフランクリン。「彼女の歌詞が大好き――60年代のキャロル・キングを思い起こさせるわ。アデルのほうがずっといいけどね!『We coulda had it all (2人ならすべて上手くいくはずだったのに)』のくだりとか。本当、アデルよね!」 2009年、フランクリンはバラク・オバマ前大統領の就任式でもパフォーマンスを披露した。彼女が音楽で多大な影響を与え続けてきた市民権運動がついに結実した瞬間だった。「自分自身を音楽で表現するといった点で、彼女に敵う人はいないわ」と、メアリー・J・ブライジは2008年のローリングストーン誌とのインタビューで語っている。「アレサの存在が、私たち女性を歌へ導いたのよ」

過去60年にわたるキャリアの中で、フランクリンはグラミー賞にノミネートされること44回、そのうち受賞は18回。1987年には女性シンガーで初めて、ロックの殿堂入りを果たした。

2016年、「リスペクト」を振り返ったフランクリンは、自身によるカバーが世に与えた影響をこのように説明した。

「あの曲が好きだったの。本当に大好きだったから、ぜひカバーしたいと思った。あの曲で語られるメッセージはとても重要。私にとって重要なら、他の人にとっても重要だわ。私個人や市民権運動、女性にとってだけじゃなく、全ての人々にとって重要なはずよ。タイムカプセルにどの曲を入れるかと聞かれたら、間違いなく『リスペクト』ね。人々はリスペクトを必要としているから――たとえ小さな子どもでも、赤ん坊でも。人間として、誰もが相手からリスペクトされる権利を持っているのよ」




Translated by Masaaki Yoshida , Akiko Kato, Smokva Tokyo

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