ベックのキーボーディスト、ロジャー・ジョセフ・マニング・Jr.が語る「盟友との制作秘話」

ロジャー・ジョセフ・マニング・Jr.

今週末に迫ったサマーソニック。18日・大阪、19日・東京のヘッドライナーとして登場するベック。Rolling Stone Japanではベックのキーボーディストとして来日を果たすロジャー・ジョセフ・マニング・Jr.へのインタビューを実施した。

ジェリー・フィッシュのメンバーとして知られ、2006年には日本でソロ作をリリースしたロジャー。同年にはフジロックにも出演(08年にも出演した)。ここ数年、ベックのバンドには欠かせない一員となったロジャーだが、6月に久しぶりのソロEP『Glamping』を発表。盟友であるベックについての話を中心にいろいろ語ってくれた。

ーベックと知り合ったきっかけと最初の印象を教えてください。

1997年にベックとベックのマネージメント会社から、ツアーのキーボーディストのオーディションに誘われた。2001年から2011年にかけて、僕自身の作品の曲作り、レコーディング、リミックス、他のアーティストとのセッション、コマーシャルの仕事などで忙しくなって意図的に離れた時期を除いては、継続的に彼とレコーディングやツアーを重ねてきたんだ。6枚のアルバムに参加し、何百回と一緒にライブを行ってきた。ベックの第一印象は、地に足が着いていて、頭の回転が早くて賢く、ずば抜けたハード・ワーカー。彼は多岐にわたる分野のアートに精通している上に、実際その世界にどっぷり浸かっていたんだけど、音楽に専念することを選んだのさ。驚くほど多読で、ユーモアのセンスがずば抜けてる。

ーベックとの音楽活動の中で、印象深かったエピソードは何ですか?

『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』のアルバムをベックとレコーディングしたときのこと。キーボードのパートを試演する段階のとき、僕はベックのためにスペシャルなサプライズを用意していたんだ。買ったばかりの年代物のシンセサイザーのあらゆる音の可能性を彼に聴いてもらい、自慢したくてね。ベックとエンジニアが新曲を聴き直してる間、お気に入りの新しいオモチャに電源を入れ、コードとアレンジメントを覚えつつ、同時に楽器に正確なチューニングをプログラミングするという厄介な手順を踏んでいた。古いキーボードはチューニングを安定させるために、ウォームアップが必要なんだよ。キーボードが本調子になるまで、我慢強く調整を続け、ようやく満足の行く音が出て、ベックにレコーディングを始められることを告げると、僕は逆に驚かされる羽目になった。曲をモノにしようと演奏をしつつ、シンセサイザーのプログラミングに集中している間に、ベックとエンジニアが全ての音を録音していて、ベックがこう言った、「もうレコーディングは終わったよ、ロジャー。欲しい音は全部録れた。ありがとう!」ってね。

僕はビックリして、練習途中の微妙な演奏だった上に、チューニングも途中で調子っ外れだというのに、なぜ大丈夫なの?、とベックを問い詰めた。彼曰く、曲の本質を理解した上での演奏だったこと、最初の無意識な反応に価値があると感じた、とのことだった。僕の演奏の純粋さの方が、音楽的に正確であることよりも重要だ、と言い放ち、さあ次に行こう、とだけ言った。 僕は言葉を失ったね。このアルバムに参加した他のミュージシャンたちも同じ目に遭うのを目撃した。彼は無駄を排し、スポンテニアスさ(自然発生性)と創作過程の制約に重きを置く、音楽のマスターさ。「10の旋律を奏でられるとしても、それがその曲にとって最善のこととは限らないんだ」、と彼は言う。学ぶ気持ちさえあれば、セッションは素晴らしいレッスンになり得る。

ー昨年、ベックのジャパンツアーに参加しましたね。

ベックとステージに立つことも、日本での経験も、いつだって最高さ。日本のファンは、成功の程度に関係なく、いつも自分が世界で一番重要なアーティストだと感じさせてくれる。音楽の創造的な面に強い関心を持っていて、作り手の個人的なこともよく知ってる。歌詞を覚えていてライブで一緒に歌ってくれたり。よく勉強して、情報をよく覚えている印象だね。じっとサインを待っていたり、手作りのプレゼントをくれたりもする。実験的な道を選択しても受け入れてくれて、何年も忠実なファンでいてくれるんだ。そのような扱われ方は、全てのアーティストが夢見る類のものだよ。

ロジャーがおすすめするベックの曲 TOP 5

Nobody’s Fault But My Own



Chemtrails



Wave



Sunday Sun



Dear Life



Translated by Kyoko Ueno

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