indigo la End 川谷絵音が選んだ5曲と「オリジナリティ」をめぐる話

-だいぶ話が逸れたので、お気に入りの曲に戻りましょう(笑)。

川谷:じゃあ、JPEGMAFIAの「Baby I’m Bleeding」。プレイリストで聴いてると、今ってヒップホップだらけなんで、スネイル・メイルとかも聴きつつ、ヒップホップばっか聴いてます。ミーゴスとかはそんなにハマらなくて、プレイリストによく入ってるのは全然好きじゃないものも多いんですよ。ドレイクも最初ギリギリだったんですけど、新しいのはめっちゃ良かった。JPEGMAFIAはチャラくないのがいいっていうか、見た目とかも好きだし、なんか聴いちゃうんですよね。他のとめちゃめちゃ違うってこともないんですけど。



たくさん出てきてて、もちろんそれぞれ違うんだけど、あとは好み」みたいな部分も実際ありますよね。

川谷:そうですね。リリックもそんなにちゃんとはわからないから、ポリティカルな部分でどうこうっていうのもないし、あとはトラックがめっちゃかっこいいとか、そういう部分ですね。

-では、ラストの5曲目をお願いします。

川谷:Grouperの「Parking Lot」。これはヒップホップでも何でもないですけど、インディゴ初期の冷たい感じというか、シューゲイザーではないけど、今回のアルバムで言えば、「Unpublished manuscript」みたいな世界観。スネイル・メイルのオルタナ感と同じで、今すごく流行ってるわけではないけど、やっぱりこういうのが自分の中にはあるんですよね。逆に、「1988」は俺の中ではシューゲイザーで、ピアノだけのところはシガー・ロスの『()』の一曲目を意識してたり、いろんな引用のある曲です。



-「1988」については、歌詞のこともお伺いしたいです。

川谷:生まれ年の曲を作りたいなっていうのは前から思ってて、今年の12月で30歳になるから、もう今年しかないなって。でも、andymoriの「1984」とか、名曲を作らないといけないタイトルじゃないですか? なので、最初から「1988」っていう曲を作ろうとしたというよりは、曲を作ってる中で、「これが“1988”だな」ってなったというか。これキャッチーでも何でもないし、もともとカップリングみたいなつもりで作ってたんですけど、でも直感でこれが「1988」だと思って、歌詞も書きました。今まではあんまり自分が第一人称の歌詞は書いてこなかったんですけど。

-ごくたまに出てくるよね。

川谷:そうですね。俺は恵まれた家庭で育ってて、両親は仲いいし、兄と姉ももう子どもがいて、大学院まで行かせてもらって、学校やめて音楽やるってなったときもサポートしてもらったし、何の闇もなく育ってるんですよ。逆に言うと、俺が好きなアーティストはみんな闇があるというか、家庭環境が複雑だったり、ストーリーがあるんですよね。俺はマジで何にもなくて、それが羨ましい……って言うと語弊があるかもしれないけど、そういう人のほうが歌詞に説得力があるんですよね。〈そのまま光を当てずに育てたなら ヘルタースケルターみたいな曲で デビューしてたのに〉っていうのは、「こうなりたかった自分」みたいなのをちょっと皮肉った歌詞というか。

-ある種の告白めいた歌詞ですよね。

川谷:でも、俺いろいろ引き寄せちゃうところがあって、茶化すつもりは全然ないけど、俺がずっと「何もない」って思ってたから、神様が「お前にもカルマを与えてやる」って、ああいう騒動を起こしたのかなって。別にいいことだったとは全然思ってないけど、結果としてはあれがあって今の俺があるから、長いスパンで見たら、全部決まってることだったと思ってて。

-「1988」もそうだし、「脈打つ、鼓動する」という意味の『PULSATE』というタイトルも象徴的なように、今回のアルバムは「生きる」ということを描いたアルバムだと思うんですよね。少し前から「命」が歌詞のモチーフになってたけど、騒動を経て、あらためてそこと向き合ったというか。これまで同様に「別れ」の歌が多いのも、「さよならだけが人生さ」じゃないけど、単なる「恋愛」というよりも、「人生」にまで踏み込んでると思うし。

川谷:昔は長生きしなくてもいいと思ってたんですけど、最近は生きることが楽しくて、長生きしたいと思うようになってきて。いろんな面白い人がいるから、まだ全然死ねないなって。まあ、米津との出会いがデカかったですかね。

-今日の話の中にも何度か出てきてるし、この前のゲスの極み乙女。のライブでも、「聴いてきたものがこんなに似てる人に出会ったのは初めて」って言ってましたよね。

川谷:感覚が似てるんですよね。「蒼糸」を配信して、すぐに「めちゃめちゃいいじゃん」ってメールが来たんですよ。そんなことなかなか言わないんですけど。

-米津くんの「Lemon」も過不足ない名曲だと思うし、そういう感覚も近いのかも。

川谷:ああ、あれは過不足ないですよね、ホントに。



-じゃあ、インディゴのこれからもまだまだやれることがありそうですね。

川谷:やっぱり「洋楽的」って言葉は使いたくないんですよね。今って洋楽的過ぎるバンドがいっぱいいるじゃないですか? そうじゃないものを提示して、橋渡しになるというか、その絶妙なバランス感はずっと提示して行きたいです。ゲスの極み乙女。みたいな派手さはないですけど、ジワジワとファンの質感も変わってきてるし、徐々に変えて行けるんじゃないかなって。まあ、どっちにしろやりたいことしかやらないんで、もしかしたら、次のアルバムはめちゃめちゃヒップホップになってるかもしれないですけどね(笑)。



indigo la End
写真左から、佐藤栄太郎 (Dr)、長田カーティス (Gt)、川谷絵音 (Vo, Gt)、後鳥亮介 (Ba)
https://indigolaend.com/


『PULSATE』
indigo la End
unBORDE
発売中

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