三浦大知、20年のキャリアを支えた身体論とは?

ーその1となるアイデアは、かなり明確な画として頭に浮かぶんですか?

ええ。もちろん練っていく過程でどんどん変化もしていくし、舵を取る角度も変わってはいきますが、土台についてはそうですね。それと、例えば今回のツアーもそうでしたけど、僕の場合、大抵は一つのツアーに対して、そこに入りきらなかったアイデアがたくさん残るんですよ。それはこことここの物語の筋を通すために泣く泣く諦めるとか、全体の流れとの関係でボツにしたものの、アイデアとしてはもったいないと思えるような積み木やピースのようなもので。それがストック用の箱に眠ってる。つまりそれらをパズルや積み木のように組み合わせるだけでも、新しい一つのツアーができないこともなくて。もしくは、次はこの積み木をメインにして、そこにどう新たな肉付けをするかと考えることもできるわけです。だから一つのツアーが終わるとゼロに戻ってまた一から出直すというよりは、作れば作るほどどんどん続けていけるような感覚なんですね。場合によっては、そこで足らないものを模索して、「これが合うかな? それともこっちかな?」といじくりながら、アイデアを違う角度から試してみることもありますね。もっと言えば、あのときのツアー、もしくはあのとき使ったパーツって、つまり自分はこういうことを言いたかったのか、と、ツアーを二つ挟んでから気付くこともあったりして。

ーつまり三浦さんのアイデアのストック箱には、今もかなりの数のアイデアの積み木やピースがごろごろと眠っているんですか?

そうですね。たくさんありますし、あと最近ちょっと考えていることとしては、その積み木自体の形を一から作るというアプローチで。今までのピースで使っていない/使えなかったものではなくて。

ー要は丸とか四角とも異なる、新たな形を一から生む、みたいなことでしょうか?
そうですそうです! まさに型そのものをゼロから作るやつです。それが成功したらまたさらにかなり面白くなるはずなんですよね。

ーそれは期待しちゃいますね。一概には言えないとも思いますが、インプットについてはどのように? ライブや舞台によく足を運ぶとか、海外のMTVをよくチェックするとか。

それももちろんありますけど、そこまでマメな方でもなくて。僕はいろいろなものから影響を受けやすいタイプだと思います。特に人との会話はけっこう大きいですね。もしかしたら今日のこのインタビューから何らかのアイデアが湧いてくるかもしれないし。

ーだとしたら光栄ですが(笑)。

自分の中になかった考え方や価値観に触れるのが好きなんです。あまり人が自分と違うことに否定的な気持ちが湧かないんですよね。「自分ではこうだと思って作ったけど、人にはそういう感じに見えるんだ?」といった発見がたくさんあるので。だから僕のアイデアの宝庫は人かもしれない。街で変な動きをしている子どもを見ると、「あ、これってダンスのステップになったらちょっと面白いかも」と思うような瞬間もよくありますし。

ー日常生活からのインスパイアがけっこう多いんですね。

ええ。それと僕、テレビCMがすごく好きなんです。最近はシリーズものも多くなりましたけど、CMって基本的には15秒とか30秒という尺の中で、絶対に伝えなきゃいけないことを詰め込んで表現しているわけじゃないですか。映っている全ての要素が、絶対に伝えるテーマのためだけに存在している無駄のない感じとか、“伝えるプロ”がせめぎあっている様子にむちゃくちゃ惹かれるんですよ。ストレートに伝える面白さもあれば、メッセージを伝えるために、あえて一旦黙ってみせるとか、CMの技法から得たヒントや概念を、ライブの構成やステージセットで試してみたこともありますね。

ーもしかして三浦さんはどちらかと言えばテレビっ子というか、主なカルチャーをテレビから吸収して育ったクチですか?

あ、だと思いますね。テレビはかなり好きですね。お笑いやバラエティもよく観ますし、ゲームもするし。

ーでは紅白にしろ、めちゃイケやミュージックステーションにしろ、地上波の露出が増えたことはかなりうれしい展開だったんじゃないですか?

はい。もちろんまだ三浦大知を知らない人にももっと知ってほしいというプロモーションの意味でもすごく重要ですし、何よりここまでずっと応援してくれてきた皆さんに喜んでいただけるのがうれしいですね。


Photo by Hirohisa Nakano

ーそうしたテレビ番組や武道館を観るとあらためて思うのですが、三浦さんは現在のポップスのシーンの中で、ダンサー、シンガー、ヒップホップと、ジャンルを問わずさまざまなな方たちと有機的につながっているし、“歌って踊れる”からこそ、時にはそういった異なるジャンルとジャンルをつなぐハブとしての機能性も備えているように思えるんです。


ありがとうございます。

ー同じ“歌って踊れる”でも、ネガティヴな意味ではなく、アイドルの場合はどちらかと言えばハブではなくて素材になる場合の方が多くて、それがアイドルの強みでもあるわけなので。そういう意味でも三浦大知というアーティストでありエンターテイナーは、初めてアッシャーを観たときの想いとはまた違った意味で、あまり他に存在しない、独自のスタンスを形成しているように思えるんですね。

そう言っていただけるのはすごく光栄ですし、そうなっていたらいいなあと自分でも思いますね。やっぱり繰り返しにはなりますが、「三浦大知だからこそ、こういうことができるんだよな」と感じてもらえる存在になっていたいというのは、自分にとって常に大きな理想の姿なので。

ー三浦さんはデビューから20周年を迎え、ソロデビューからも既に10年以上のキャリアを誇ります。例えば音楽で言えば「宇多田ヒカルを聴いていました」、「椎名林檎が好きでした」といった世代がシーンにどんどん現れています。

そうですよね。分かります。

ー今後、より注目や露出がマスに向かっていくことで、もちろん今でもいるんですが、「三浦大知でダンスに憧れました」、「三浦大知を観て、歌って踊るスタイルを志しました」といった男性パフォーマーが、どんどん登場してほしいしと思いますか? もしくは「なんでまだあまりいないんだろう?」といったじれったいような感覚を抱いたりはしますか?

それはどちらもありますね。自分としてはアッシャーを初めて観たときから今日まで「これって絶対面白いのに、なんでみんなやらないんだろう?」と思ってきましたから。だってカッコいいし楽しいですからね。これが一つのシーンを築いたら絶対に面白くなると思う。そういう意味では女の子の方が人口的には多いと思うんです。ソロもグループも、みんな歌って踊るじゃないですか。男の子にもどんどんトライしてほしいですね。たくさん集まったら最高だと思うし、その中に「三浦大知を見て面白そうだと思ったから」なんて言ってくれる子がいてくれたら、そんなにうれしいことはないですね。

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