三浦大知、20年のキャリアを支えた身体論とは?

ー声についても聞かせてください。三浦さんは先ほどのお話通り、過去に変声期のため5年間の休業を経験しています。そしてソロデビュー後も、シングル「The Answer」(2010年)のあたりで、新たなボイストレーニングの先生の元に通われて、自ら歌い方をテコ入れして、発声方法を変えたそうですね。キャリアの中で声に関する転換期を二度も迎えて、怖くはありませんでしたか?

発声をやり直すときは怖かったですね。今よりもよくなるためとは言え、「一旦、声が全くコントロールできなくなるし歌も下手になるけど大丈夫ですか?」と聞かれましたからね(笑)。

ーうわ……でもやってみたらガラリと変わったわけですか?

はい。腕を鍛えて整体が引っ張られたというさっきの話も、「ここの筋肉がついたから伸びなくなったんじゃない?」と言い当ててくれたのがその先生で、ヨガにも整体にも精通されている方でして。そもそも声というのは全身で奏でる楽器なんですね。だから身体の状態を見て「ここがちょっと硬いなら、こっちの筋肉をほぐせば声が出るよ?」とか、「太ももをほぐすと声を出しやすいよ?」と教えてくれて。声楽って、別にそれが悪いとは言わないんですが、こういう腹式呼吸でこう発声をすると喉に負担をかけずにきれいな響きの声が出せるんですよ、みたいなセオリーがあって。

ーそうですよね。

でも、その先生はそうではなく、その人の声帯や身体の状態を踏まえて、じゃあこういう感じの声の出し方をしてみようか?と一緒に模索してくれて。僕との相性もよかったんですね。で、その先生から「もうちょっとここに力入れてみて、こういう感じで歌ってみて」と言われるがままに歌ってみたら「あれ? 俺、こんな声だったっけ?」みたくなって。

ーおお。

「コントロールできるようになったら喉もかすれにくくなると思うから」みたいな感じだった。あれはすごく面白かったですね。

ーつまりは逆説的に捉えたら、そこをコントロールできるようになった今の三浦さんは、例えば歌で自分が「あれ? 今日はちょっと調子が悪いな」と感じたら、身体のどの部分をほぐして、どの部位の力を抜いたらいいのかを、ある程度まではコントロールできるということでしょうか?

はい、たぶん何となくはそれが出来ていると思います。

ーやっぱ凄いなあ三浦大知。3月7日には『BEST』がリリースされました。これはデビューから直近までのシングルのタイトル曲と初CD化の楽曲1曲と新曲1曲の全26曲で構成された初のべストアルバムでした。歌いながら踊るという三浦さんのスタイルだと、シングルであろうがアルバム曲であろうが、おそらく基本的に楽曲の選定にせよ制作にせよ、多かれ少なかれステージで歌うことを想定されているわけですよね。

うん、基本はそうですね。

ーやはりそうですか。尚且つ、ご自身も曲によっては作詞作曲に参加されていますが、楽曲の制作時はご自身の中で、「この曲ならこういうパフォーマンスができるかな?」とどの程度まで逆算しているのでしょうか? つまり、ダンスのことはさておき、「これはパフォーマンスしづらいかもしれないけれど、曲がいいから歌いたいぞ」と、思わず手が伸びちゃったようなパターンはあったのかなあと。

あ、それはどちらのパターンもありますね。例えば自分が一から参加して作る曲は、やっぱりこういうスネアのこういうサウンドで、とか、このBPMならライブでこうなるな、みたいイメージが頭にある状態から作っていけるし、提供曲の場合、特に海外の作家からの曲を最初に聴いたりするときなんかは、それを聴いた瞬間に、これを三浦大知がこうパフォーマンスしたらカッコいいかも、とイメージできる曲に惹かれますね。僕にとっては自分の中で「カッコいい」と思えるかどうかがかなり重要で、それはやっぱり基本的には今の三浦大知の楽曲にとって、出来上がった曲が迎える最初のゴールはライブである、と意識しているからだと思います。


Photo by Hirohisa Nakano

ーしかもあれだけ踊っているのに、あの生歌のクオリティの高さですからね。つくづく尊敬します。


いえいえ、ありがとうございます(笑)。

ーちなみに日本のポップスでいうとFolder時代でもそれ以降の10代の頃でも、この人にハマったとか、あの流行った曲は聴いたなあ、みたいなものってありましたか?

久保田利伸さんや、あとは両親が好きだったドリカムさん(DREAMS COME TRUE)とか、槇原敬之さんをよく聴いていましたね。

ー根本的に美メロ好きなんですね。

あ、それはかなりあると思います。特にエモーショナルなメロディに惹かれます。だから昨今の欧米のヒットチャートの曲は、正直に言うと、ちょっと自分の中ではやや物足りなさを感じていますね。

ーその点におけるルーツとして挙げていただけるアーティストは?

いわゆるR&Bの中で最初に影響を受けたのはボーイズⅡメンだと思います。Folder時代、当時のマネージャーさんがすごく好きだったので、ずっと移動のクルマで流していたんですよ。たぶんコーラスとかハーモニーという概念を僕が初めて意識しながら聴いたアーティストだと思います。BGMとしてずっと心地よく聴けるメロディよりも、ともかくグッとくる、エモーショナルなメロディの方が好きなので。

ーここ最近の中で気になるアーティストはいますか?

フランシス・アンド・ザ・ライツなんかはメロディがよかった。ああいうアーテイストはすごく好きですね。

ー心にグッとくるエモーショナルなメロディという意味では、三浦さんはバラードにも定評があります。そしてどの曲にも総じて通底しているのがポジティヴィティなのかなあと。

おっしゃる通りです。ダークな曲でも、ただ暗いままで終わらせるのではなく、その先の明るい光や相対する存在を描き出すようにしていますし、常に希望を見出すようなポジティヴさを忘れないようにしています。

ーちなみに日本語詞の曲でもメロディでも、三浦さんにとって心の支えになったような曲って、何かあります?

うーん……たくさんありますけどねえ。でも質問の答えからは少しズレるかもしれませんが、日本に生まれてよかったなあというか、やっぱり自分の母国語は日本語なんだなあと心が揺さぶられた曲は「チキンライス」でしたね(※浜田雅功と槇原敬之。2004年)。

ーおお、そうきましたか。

あの曲は歌詞が松本(人志)さん、曲が槇原さん、歌が浜田さんだったんですけど、僕は中学時代、ちょうど洋楽ばっかり聴いてた時期があって、まあちょっとカッコつけて粋がっていた時期だったんですね(笑)。だから、いわゆる邦楽をあまりチェックしていなかったんですよ。でもあの曲を聴いたとき、何よりもグッときた。ああ、自分は日本人なんだあと思い知らされたというか。

ーほお。

僕はソロデビューして以降、例えば作詞をするときは、基本的にまず一度日本語で書いてから、必要なところを後から英語で直すようにしているんですが、日本語と向き合う姿勢について、あの曲はかなり大きな影響を受けましたね。クリエイティヴにしろ何にしろ、その時々で壁にぶち当たったり、行き詰まってしまう場面なんて、いくらでもあるじゃないですか。でもやっぱり音楽やクリエイティヴ、エンターテイメントについての悩みを救ってくれるのも、結局のところ音楽だった気がしますね。

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