三浦大知、20年のキャリアを支えた身体論とは?

ーこれは引退したアスリートや力士から聞いたことがあるケースなのですが、若いときよりも5年、10年と経験を積んでからの方が、自分の身体の動かし方がよく分かってくるし、脳と身体が直結しやすくなると。ただ、問題は年齢を重ねることで、脳は経験から「いまこの動きがベストだ」と信号を送るんですが、既に身体がそれに付いていけなくなっている場合があると。

なんとなくは理解できます。つまり「瞬発力でいけなくなる」ということですよね?

ーだと思います。三浦さんは2005年にソロデビューして現在30歳。ソロデビューしてから10年以上の歳月が経って、ここ最近、これまでで一番大きなブレイクを迎えたという状況だと思います。

ありがとうございます。

ーキャリアの初期から歌とダンスに定評がありましたが、例えば昨年リリースされた映像作品『Live Chronicle 2005-2017』を拝見すると、やっぱり初期と近年の映像を比べたら、素人目にもパフォーマンスが成長を遂げていることが理解できるわけで……。

いえいえ(苦笑)。でもありがたいです。

ーそうした成長の一方で、年齢を重ねたフィジカルのコンディションは、今どんな状態だと説明していただけますか?

これがもう上り調子の真っ只中なんですよ(笑)。30代を迎えたらキツくなった、みたいな感覚は今のところ一切ないですね。

ーそれは素晴らしいですね。

ただ、じゃあ例えば35歳になった頃、「Cry & Fight」という曲のハードなダンスを今と同じテンションで踊りながら歌えるのか?と考えると、正直、そこは何とも言えなくて。もしかしたら5年後に「あれ、キツいかな?」と感じる可能性だってゼロではないわけですから。

ーまあ幸いなことに今の時点ではその心配も一切無用な気がしますが。

でもまあそうなったらなったで、そこを三浦大知なりに面白く見せたい。「Cry & Fight」には肩を動かす振付があって、今はもちろんサビとかバキバキに踊っていますけど、一方でダンスというのは何もキレキレで踊っていればいいというものでもないわけで。もしかしたら、今よりも40代になってからの方が、肩の動きの説得力がより増している可能性だってあるかもしれないですし。

ーそうですね。先ほど(このインタビューページ用の)撮影中にウォームアップのような動きをされていましたが、何かルーティンにしているストレッチやメソッドはありますか?

基本的にはあえて決まったルーティンを組まないようにしています。

ーほう。なぜですか?

環境や状況に関わらず、ステージの上で自分をベストな状態に持っていけるようにしておきたいからです。ナチュラルな状態でステージに立って、最良のパフォーマンスを見せることができる。それが理想なんです。もちろん、体幹やインナーマッスルは大事なのでそこは鍛えなきゃいけないんですが、僕、以前に一度、機械で腕を鍛えたときに、声が出なくなっちゃったことがあって。

ーそれはいわゆるスポーツジムにあるような筋トレ用のマシンを使ったんですか?

はい。そうしたら肩甲骨から二の腕にかけた筋肉が重くなって、声帯が下に引っ張られちゃったらしく、ハイトーンが伸びなくなってしまったんですね。でも鍛えるのを止めたら、しばらくして元に戻った。どうやら“踊るための筋肉”と“歌うための筋肉”をそれぞれに鍛えて合体させても、“歌いながら踊るための筋肉”にはならないようで。

ーそういうものなんですねえ。

結局、“歌いながら踊るための筋肉”は歌いながら踊ることで鍛えるのが最も効率的だと思うんです。だからリハーサルやライブの場で常にしっかりと身体を作って、それ以外はあまりあれこれと決めないようにしているんですよ。

ーつまり実戦こそが最大のメソッドでありトレーニングであると?

そういうことですね。以前、中村七之助さんと対談させてもらったときに、歌舞伎にもあまり決まった練習メニューがないというお話しをうかがいました。で、最後にはお互いに「結局のところ、重要なのは“現場筋”なんだよね」という結論で一致しまして(笑)。


Photo by Hirohisa Nakano

ーそれは上手い言葉ですね。フィジカルの言語化は興味深いし楽しい。

そうですよね(笑)。それで言うと、「外側が柔らかくて中が硬い」が、三浦大知における理想的な現場筋の言語化として一番分かりやすいんじゃないかなって。

ーステーキの逆ですね?

タコ焼きでも最悪なパターンですよね(笑)。例えば(※テーブルに置かれていた)このペットボトルは、中は水だから柔らかいじゃないですか。で、容器にはある程度の硬さがある。で、ちょっと揺らすと中が揺れますよね。

ーはい。

その逆というか、中に一本、硬い芯が通っていて、その周りを包むグミみたいな外見がぐにゃぐにゃと動いているというのが理想的なイメージなんです。外見がいくら揺れても、真ん中は耐震構造のように外の影響を受けないという。だから外見がどんなに動いても、柱がブレないから、歌もブレずに歌うことができるというイメージですね。

ーなるほど。そうした構造で言えば、三浦さんと菅原小春さんの対比がまた興味深いんですよ。これは以前、菅原さんにインタビューした際にもお話ししたのですが、先ほど三浦さんが話されていた柱が、彼女の場合は球体に近い気がするんですね。その球体がずっと真ん中で浮いていて、やはり外見が全てぐにゃぐにゃと動くイメージというか。もっと言えば重心が下に向かっていないように見えて、それが彼女独自のダンスを形成しているのではないかと思うんです。

ああ、なるほど。

ーで、この見立てを彼女に話したら「それは自分がクラシックバレエや古典的なダンスのセオリーを全く通らず、我流でやってきたせいかもしれない」と語っていらっしゃって。

そうかもしれませんね。

ーで、やはり三浦さんの場合は、まさに今お話しいただいたように、柱と耐震構造だから浮いてしまってはいけないわけで、菅原さんと比べたら重心も下に向かっている。でもその芯以外は極めて自由だから、手足と頭で三角形でも五角形でも羽でも放物線でも描いて見せられるというか。

うんうん。

ーこの見立てが正しいかどうかはさておき、お二人のダンスを見ていると言葉が湧いてくるんですよ。

うれしいですね。でも思えば僕も小春と同じで、特定のジャンルをちゃんと消化してきたタイプではないですね。まあ最初はジャズというかヒップホップジャズみたいなものから入りましたけど、だからといってそれが今のスタイルに直結しているかというと違うし。あくまでも複合形なんですよね。あと音楽とダンスが共に歩み育ってきたという感覚はありますね。やっぱりそのときの音楽のトレンドに合わせて、自分のオリジナルのダンススタイルを模索してきたという側面もあるので。

ーそして、そこでもやっぱり歌と踊りはセットなんですよね。

うん、そうなんですよ。

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