フジロック現地レポ「チャーチズ、静と動のダイナミクスが生んだ多幸感」

| 7月29日(日)、フジロック3日目のホワイトステージに出演したチャーチズ(Photo by Shuya Nakano)

中央にはドラムセット、その両端にシンセスタンドが配置されたシンプルでシンメトリーなステージ。今年のフジロックもラストスパートに入り、ホワイトステージの大トリを務めるチャーチズが定刻通りに現れた。

まずは、今年5月にリリースされたサード・アルバム『Love Is Dead』から、「Get Out」でライヴはスタート。2016年2月に赤坂BLITZで開催された単独公演では、ローレン・メイベリー、イアン・クック、マーティン・ドハーティの3人編成だったステージが、今回はサポート・ドラマーを迎えた4人編成。ドライヴするシンセベースのリフに導かれ、ドリーミーなBメロを経てサビでリズムが入った瞬間、彼らの「ライブ・バンド」としてのグルーヴやダイナミクスが、桁違いに上がっていると気づいた。チャーチズの音楽は、元々デペッシュ・モードやニュー・オーダー、マドンナなど80年代エレクトロポップの影響を強く受けており、レコーディングではドラムもほぼプログラミングによるものなのだが、それをそのままライブに持ち込んだときに、どうしても脆弱なサウンドになりがちなのが、初来日(2013年のサマーソニック)のときから気になっていた。が、そうした課題がドラムを入れたことにより、一気に解決していたのだ。

強力なサポートを得たことで、メンバー3人のパフォーマンスもさらに進化している。中でもローレンの成長ぶりは、目を見張るものがあった。カラフルなフェイスペイントを施し、「Come As You Are」(ニルヴァーナの楽曲から?)とプリントされた白いTシャツに、白いチュール・スカートという出で立ちで、まるで妖精のようにくるくると舞い踊ったかと思えば、スカートをたくし上げながら激しくヘッドバンキング、時にはオーディエンスを真っ直ぐ見据え、拳を振り上げる。イアンとマーティンに支えられた、まだ学生っぽさが残る「マスコット的存在」という印象だった頃の彼女とは、もはや別人のよう。バンドを引っ張るフロントとしての役割を完璧にこなしている。


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano

もちろんそれは、若い女性アーティストを紹介するサイト「TYCI(Tuck Your Cunt In)」を立ち上げたり、ガーディアン紙に“ネットに蔓延する女性を蔑視したコメントに対するオープン・レター”を寄稿したり、オンライン・ニュースレター『Lenny Letter』に、元カレの暴力的な行動から抜け出すために必要だったという“最後の警告”について寄稿したり、今やすっかり社会現象となった「#MeToo運動」の先駆けともいえる言動を行なうなど、オピニオン・リーダーとしての自身の役目を、彼女自身が強く自覚するようになったことも大きく影響しているのだろう。

さて、セットリストは、ファースト『The Bones of What You Believe』から6曲、セカンド『Every Open Eye』から4曲、そして新作『Love Is Dead』から6曲と、新旧バランスよく並んでいる。セカンドよりもファーストの曲を多く取り上げているのは意外だったが、アデルやベック、リアム・ギャラガーなどを手がけた売れっ子プロデューサーのグレッグ・カースティンや、エド・シーランとの共作でも知られるソングライター、スティーヴ・マックらとタッグを組むことで、セカンドのポップネス&ダークネスをさらに追求した『Love Is Dead』の楽曲と並べてみると、ファーストの楽曲もこれまでとはまた違った響き方をしていたのは確か。「ライブ・バンド」として成長した今のチャーチズが演奏している、というのも大きいのかもしれない。彼らの書くメロディは、デビュー時からとびきりポップだったのだ。

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Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano

ライブの中盤では、マークのヴォーカル曲である「God’s Plan」と「Under The Tide」を披露。ステージ狭しと動き回りながら、渾身の力を込めて熱唱する彼の姿に心打たれる。この2曲があるのとないのとでは、ライブの見え方も全く違うものとなるだろう。チャーチズが、「ローレンをフィーチャーしたユニット」ではなく、あくまでも「バンド」であることの矜持をこのとき強く感じたし、何よりマーティンの「声」がチャーチズにとって無くてはならない要素であることを、あらためて思い知った。

雨がぱらつく中、ライブは後半へ。静と動のダイナミクスが圧倒的な「Miracle」では、自然発生的にシンガロングが巻き起こり、ドラマティックなミドルチューン「Recover」では、サビ後の展開でローレンと一緒にハンドクラップ、会場は一体感に包まれる。

「私たち日本が大好きで、初来日の時から毎回来るのを楽しみにしてる。だって、チャーチズの曲ばかりかけるイベントをやってる国なんて日本だけだよ!」と、東京・渋谷で開催され、本人たちも“降臨”したファンイベント「CHVRCHES NIGHT」についてMCで話したり、ファンにプレゼントされたという、日の丸に「CHVRCHES」と書かれた手縫いのフラッグを、大切そうにステージに飾ったり(途中、ローレンが身体に纏って歌うシーンも)、彼らが日本をどれだけ大事にしているかが伝わってきたのもうれしかった。

ローレンのアカペラで始まった「The Mother We Share」、間奏でものすごい重低音が轟いた「Clearest Blue」と続き、最後は壮大かつユーフォリックな楽曲「Never Say Die」を、全員でシンガロング。「今、計画していることがあって、まだ内緒なんだけど。またすぐ会おうね!」と、意味深な挨拶してステージを後にした。

近いうちに単独公演の発表でもあるのだろうか。ともあれ、フジロック最終日の大トリに相応しい、多幸感に包まれたライブだった。



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