ビートルズ『ホワイト・アルバム』の原点となった音源「イーシャー・デモ」制作秘話

ロブ・シェフィールド著『Dreaming the Beatles』には、ビートルズが『ホワイト・アルバム』のデモを楽しそうに製作する様子が描かれている。 (Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images)


50年経った今なお『イーシャー・デモ』は、ビートルズの最も風変わりな成果物のひとつとされている。5月の終わり(誰も正確な日時を覚えていない)にジョージの自宅へ集まった彼らには、新曲に過剰な自信を持つだけの確固たる理由があった。彼らは電子楽器を持たず、インドのリシケシュでマハリシと共に瞑想して過ごしながら曲を書いた。彼らはまた、ドラッグにも手を出さなかった。彼らの作品の中でも曲の出来がしっかりとしていたのは、そのおかげかもしれない。後にジョン・レノンは「山の中に座って粗末なベジタリアン・フードを食べながら、曲を書いたのさ。インドでは山ほど曲が出来上がった」と語っている。ビートルズの中でも最も気の多いジョンは、リシケシュでホットな3か月間を過ごした。そのため、『ホワイト・アルバム』は最もジョン中心のアルバムに仕上がっている。それ以前にリリースされた最もジョンらしい最高の曲が収録されたアルバムといえば、1964年の『ア・ハード・デイズ・ナイト』だ。

イギリスへ戻ったメンバーたちは、アビイ・ロード・スタジオでレコーディングする前に、自分たちの縄張りでホーム・デモを作成することにした。これは彼らの最初で最後の革新的な手法だった。メンバーは、サリー州郊外にある素敵なインド・スタイルで装飾されたジョージのヒッピー・バンガローに集結した。ジョンは、ポールの用意した7曲やジョージの5曲よりも多い15曲を持ち込んだ。テープには、お香を焚いたリビングルームでギターをかき鳴らし、タンバリンやシェイカーを鳴らしてリラックスした雰囲気で演奏する彼らの様子が収められている。ジョージと妻のパティは何も持たず、議長のように革製のクッションにもたれていた。



イーシャー・デモは、何年も埋もれていた貴重な発見といえる。その後アルバムへ収められるまでに苦労が重ねられた楽曲は、アコースティックギターと手拍子のみで歌うキャンプファイヤーのような感じで演奏され、ワンテイクで録音された。半ば完成していた楽曲の内、『ポリシーン・パン』と『ミーン・ミスター・マスタード』はアルバム『アビイ・ロード』に収録し、その他は各メンバーのソロ・アルバムに収められた。ポールは『ジャンク』、ジョージは『ノット・ギルティ』と『サークルズ』をそれぞれレコーディングしている。ジョンは、この時作った『チャイルド・オブ・ネイチャー』を、後に『ジェラス・ガイ』として焼き直した。各楽曲で彼らは雄叫びを上げ、特に『ハニー・パイ』は盛り上がった。かつてのようにスタジオへ押しかけて数日間で曲を仕上げるやり方を楽しんでいるようだった。しかしその後のセッションで、デモのゆるい感じを再現しようとして終わりなき悪夢にはまることになろうとは、誰も想像していなかっただろう。『オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ』には47テイクかかり、『ノット・ギルティ』は102テイクを録音したものの、結局ビートルズのアルバムには収録されなかった。



デモ・テープでは、メンバーが時折マル・エヴァンズやデレク・テイラーへ話しかけている声が聞こえる。恐らくそのふたりは、バンドのためにお茶を淹れたり煙草を巻いたりしていたと思われる。リンゴは静かにその場にいたが、『バンガロー・ビル』では彼の叫び声が聞こえる。とてもフレンドリーな雰囲気で、『ホワイト・アルバム』から敵意を差し引いたような出来だった。つまり『ホワイト・アルバム』とは似ても似つかないものといえる。何曲かは未完成な状態で、『ヤー・ブルース』のジョンは“自滅的(suicidal)”というよりは“不安定”で、ジョージの『ピッギーズ』は“ベーコン”でなく“ポークチョップ”を食べていることになっている。ジョージの歌が素晴らしい『サワー・ミルク・シー』は、リヴァプールの友人ジャッキー・ロマックスに提供され、1968年にヒットした。同曲のレコーディングには、ポール(ベース)とリンゴ(ドラム)も参加している。『アイム・ソー・タイアード』の中でジョンが、「When I hold you in your arms, when you show each one of your charms, I wonder should I get up and go to the funny farm? No, no, no!」とドゥーワップのモノローグを真似て語る場面のように、メンバーが互いに盛り上げようとしているのがわかる。

Translated by Smokva Tokyo

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