サッカーからヘディングをなくすべきか?脳の損傷を防止する規制ルールへの動き

FIFAが独立した機関であるべきと主張するのは、アストルだけではない。FIFAで元セキュリティ部門幹部を務めたクリス・イートンも、その中のひとりだ。彼は、2011年に実施された、サッカー界にはびこる買収や八百長に対する大々的な摘発を中心となって推進した人物だ。

「ビジネス主体の他の業界同様、国際サッカーも外部から監査されるべきだ」とイートンは言う。「FIFAが、脆弱な競技者の健康や安心・安全を犠牲にして、ビジネスの拡大に注力していることは嘆かわしい」

NFL同様FIFAも、脳を心配した現役選手たちの早期引退の現実に直面しはじめている。2017年9月、元アイルランド代表のフォワード選手ケヴィン・ドイルは、医者からの勧めにより引退した。彼は絶えず頭痛に悩まされていたが、彼自身は長年に渡るヘディングによるものと考えている。また、サッカーの主要メディアやウェブサイト上にも、大胆なルール改正を求める怒りの声が寄せられ、議論が巻き起こっている。人気の高いオンライン・サッカー・マガジンGoal.comの支局長ピーター・ストーントンは、Acta Neuropathologica誌に掲載されたCTE研究を受け、サッカーにおけるヘディングの禁止を訴えている。

「ヘディングを禁じることで、頭部に対する脳震盪に至る手前程度の衝撃を受ける回数を減らすことができ、致命的な脳損傷のリスクを最小限に抑えられる」とストーントンは書いている。「ヘディングを禁止することでサッカーがどのように変わろうが、今重要なことは、悲劇的なことが起きてからの対応では遅いということだ。昏睡状態、永久的な植物状態、脳死状態など、何が起きたら対応するのか? 選手の脚を守るために後方からのタックルを禁じることができたのだから、選手の脳を守るために、空中における事実上のタックルも禁止できるだろう。きっと50年後には、なぜこんなことを長い間許してきたのだろうか、と思い返すだろう」


テキサス州フリスコで行われたMLSの試合後半、ボールをヘディングで競り合うヴィクター・ウリョアとコロラド・ラピッズのケヴィン・ドイル(右)

選手組合からの強い要求もあり、改善策を立てながら脳に関する調査も進め始めたサッカー協会もある。オランダとイギリスのサッカー協会は最近、長期に渡るヘディングの与える影響に関する研究を始めた。プロ・ラグビーの例に倣えば、サッカーも研究結果を受けてルールを改正することになるだろう。

「国際ラグビー界は、CTEにつながる大きな危険性を伴う脳震盪やそれに至る寸前の衝突等、全般的な脳損傷を減らす対策に関しては最先端を行っている」と脳震盪レガシー財団の共同設立者で医療部門の幹部を務めるロバート・キャントゥ博士は言う。「一方でFIFAは、10年前のNFLを思い起こさせる」

FIFProの医療部門責任者Vincent Gouttebargeは、2018年がFIFAにとってついにアクションを起こす年であって欲しいと、かすかに願っている。FIFProは最近、FIFAとの6年契約を締結した。契約に基づき、健康と安全に関する問題等を話し合う場も設けられる。第1回目の会合は2018年後半に行われる予定で、Gouttebargeは、話し合いを新たな段階へ進めたいと目論んでいる。

「理想としては、FIFA、クラブ、選手という3者の全ステークホルダーが協力しあい、短期および長期的に選手の健康を守るべきだ」とGouttebargeは言う。「精神的或いは身体的な健康問題を抱える元選手も多い。以前のFIFAは我々との協力に消極的だったが、CTEに関する研究結果が確定的なものとなれば、両者の責務はクラブのオーナーでなく、選手たちへ向けられる」

一方でドーン・アストルは、サッカー界を牛耳る悪名高き腐敗組織からの激しい抵抗を予想し、準備を始めている。

「選手たちが亡くなっているのにFIFAは気にも留めていません」と彼女は言う。「何十億ポンドのビジネスを守ろうとする姿勢は、重大な犯罪的過失です。FIFAも、サッカーが殺人者だとは誰にも思って欲しくないはずです。でも実態は違うのです」

Translated by Smokva Tokyo

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