サッカーからヘディングをなくすべきか?脳の損傷を防止する規制ルールへの動き

サッカー選手を対象とした頭部損傷に関する研究は、ごく最近始まったばかりだ。2015年、パーデュー大学の研究によると、サッカーのゴールキックをヘディングした際の衝撃は、アメリカンフットボールのタックルやボクシングのジャブがクリーンヒットした時の衝撃と同程度であることが判明した。2017年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究員は、サッカーに特化した初のCTE研究論文をActa Neuropathologica誌に発表した。結果、6人のプロサッカー選手の脳にアルツハイマーの兆候が現れ、その内4人にはCTE特有のタウ・タンパク質の蓄積が見られた。

「引退した複数のプロサッカー選手にCTEの症状が発見された初めてのケースだった」と同論文の責任者であるヘレン・リンは、大学によるインタビューで語っている。「我々の研究によると、サッカーとその後の人生における脳変性疾患の進行とは関連がある可能性を示している」

リンは研究対象とした選手の数が少ないため結論を断言することはできないとしながらも、FIFAに対し、より詳細かつ広範囲な研究への協力を求めた。しかしFIFAは即時に拒否した。彼女の研究が公開された翌日、FIFAの広報担当者は同研究を“確定的でない”とし、フランス通信社に対し「サッカーは、脳や頭部に損傷を負いやすいハイリスクなスポーツには属さない。我々が認識する限り、サッカーにおけるヘディングや脳震盪にまでは至らない程度の衝撃が悪影響を及ぼすとする確固とした証拠は、今のところない」と述べた。

FIFAによる同様の見解は、ローリングストーン誌へのメールでも繰り返された。「FIFAは、頭部および脳への損傷に関する問題について真剣に取り組んでいる」とFIFAの広報担当は言う。「我々が認識する限り、サッカーにおけるヘディングや脳震盪にまでは至らない程度の衝撃が悪影響を及ぼすとする確固とした証拠は、今のところない。現役および引退したプロサッカー選手に対する脳機能の研究結果は、確定的なものではない」

恐らく聞き覚えがあるかもしれないが、NFLも数年に渡り同様の主張を続けていた。その後、科学界、選手や社会から声が上がり、大規模な集団訴訟も起こされたことにより、NFLの主張が危うくなった。結局2016年3月、NFLの医療部門責任者は、アメリカンフットボールがCTEのリスクを高めると、公に認めざるを得なかった。

FIFAは、世界的なサッカーの普及活動のための資金調達により力を入れてきた。FIFAの積立金は2004年以降5倍に膨れ上がり、W杯も20億ドル(約2260億円)規模となり、世界で最も儲かるイベントになった。

同時に、頭部損傷や脳疾患に対する選手や社会からの関心も高まってきた。2002年、イングランドの伝説的フォワードだったジェフ・アストル(享年59)の死因が、サッカーのヘディングに関係するという検死結果に注目が集まった。アストルは、1966年の地元開催のワールドカップで活躍した選手で、キックよりもヘディングによるゴールの方が多かったことで有名だ。彼の死を受けて娘のドーンは、頭部損傷に関する彼の名を冠した団体を設立した。前出のトゥウェルマンら同様、彼女もFIFAの沈黙の壁に突き当たっている。



FAカップの第6ラウンドの試合中、リヴァプールのゴールキーパー、トミー・ローレンスとボールを争うウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンFCのCFジェフ・アストル(ウェスト・ブロムウィッチ、1968)

「FIFAから私に対してCTEに関するコメントをもらう必要はありません」とドーン・アストルは言う。「国の検視官が、父の死因はサッカーで繰り返しヘディングしたことによる職業病だと結論付けたのです。それは父の死亡診断書に明記されています」

さらに彼女は、「私はFIFAを完全には信用できません。腐敗した組織です。FIFAは世界レベルの機関および規定者として独立した存在であるべきです。サッカー界がサッカー界を監視していてはいけません」と続けた。

Translated by Smokva Tokyo

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