「3.5インチ革命」密かなブームとなっているフロッピーリリースの裏側

すべて3.5インチのフロッピーディスクでリリースしている史上初のヴェイパーウェイヴ専門レーベルStrudelsoft(Courtesy of Strudelsoft)

カセットブームの次は、フロッピーディスク?ノスタルジーを追求するヴェイパーウェイヴの世界で、今フロッピーディスクが愛される理由とは?

カナダ・オタワでカセットとビデオテープでのリリースに特化したレーベルを始めたスターリング・キャンベルは、娘の住む場所に近いオンタリオ州コーンウォールに戻った際、自らを奮い立たせる新たな刺激を求めていた。

「何か新しいことをやろうと思ったんだ」彼はそう話す。「世間が考えもしない、とことん馬鹿げたことをね」

そうして誕生したStrudelsoftは、史上初のヴェイパーウェイヴ専門レーベルとされる。現在36歳の彼が運営する同レーベルの作品は、すべて3.5インチのフロッピーディスクでリリースされている。

インターネットを住処とするその謎めいたサブジャンルは、これまでもノスタルジックなメディアにこだわってきた。既存の曲をスロー再生しつつ深いリヴァーブをかけ、センチメンタルとも不気味とも取れる世界観を生み出すヴェイパーウェイヴにとって、ヒスノイズを伴うカセットテープは理想的なメディアだ。同ジャンルが静かなブームとなっている現在、よりレアなフォーマットを求める各レーベルが目をつけたのは、80年代および90年代にWindowsやAOL、Doom等のシステムに用いられたフロッピーディスクだった。

「フロッピーはカセットよりも安価で、複製に手間もかからない。見た目もクールだし、カラーやデザインが豊富な点も人気だね」。サンディエゴに拠点を置くプランダーフォニック/ヴェイパーウェイヴのレーベル、Power Lunchを運営するマシュー・イソムはそう語る。現在40歳の彼曰く、フロッピーは海外への発送費用もカセットよりも安いという。

彼らはフロッピーの限られた機能を最大限に活用する術を見出している。「いろいろ試したところ、8ビットのMP3であれば11分38秒収録が可能だってわかったんだ」これまでにStrudelsoftから6作をフロッピーでリリースしているキャンベルはそう話す。「最初のリリースはCat System Corpっていうヴェイパーウェイヴのアーティストだった。フロッピーディスク20枚くらいを用意してたんだけど、発売から8秒で完売したよ」

当初キャンベルはまとまった数のフロッピーディスクをebayで購入していたが、コストが嵩むことが悩みの種となっていた。そこで彼は自身が身を置くIT業界で築いた人脈を活用し、下請け企業の従業員たちからフロッピーディスクの寄付を募った。さらに彼はカナダのクラシファイドサイトKajijiに、不要なフロッピーディスクを引き取らせて欲しいという旨の広告を掲載した。そのアイディアは功を奏し、現在彼の自宅の地下室には400〜500枚のフロッピーディスクが保管されているという。

「引き取ったフロッピーの中身がなかなか興味深いんだ。『かわいい魔女ジニー』や『ギリガン君SOS』の静止画が入ってたりするんだよ」彼はそう話す。「あとは家族写真とかね。そういえば、ウイルスのトロイの木馬が入ってたこともあったな。hotguy.exe.っていうタイトルが付けられてた。うっかり開かなくてよかったよ」

Translated by Masaaki Yoshida

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