ホイットニー・ヒューストン、知られざる苦悩と歩んだ軌跡ードキュメンタリー映画制作秘話

全米で新作ドキュメンタリー映画『Whitney(原題)』が公開された (Photo by David Corio/Redferns)


ホイットニーの元夫ボビー・ブラウンは、結婚のなれそめや2人で過ごした幸せな時期を喜んで語ってくれた。だが、ひとたび話題がドラッグのことになると彼は完全黙秘だった。映画の中では、ドラックの話題を迫られたボビーが黙り込むシーンが登場する。「明らかに彼女の人生の重要な出来事、彼女を破滅に追い込んだ出来事について、絶対に口を割らないという彼の姿勢には、ある種の強い意思さえ感じた」とマクドナルド監督は振り返る。「僕の目には、ボビーはこの件について全体像をとらえることができていないように見えた」

インタビューから数か月後、監督は最後にダメ押ししてみた。「ボビーの家を訪ねて、彼にこう言った。『ボビー、本当はインタビューをしたくないんだろ? 大勢の人が、君よりずっと誠実に、ずっと正直に話してくれた。もういっぺんやり直そうじゃないか』 それから話をしたんだけど、不愉快な出来事がいくつも重なって、結局実現しなかった。何が起きたかは言わないでおくけど」

ホイットニーの大親友ロビン・クロフォードもまた、監督の悩みの種となった。彼女はホイットニーの絶頂期に一番身近にいた人物で、過去のドキュメンタリーでも2人がつねに一緒にいる姿が登場した。だが、クロフォードは断固インタビューを拒否した。「メールで何度もやりとりした。彼女は僕の作品を気に入ってくれて、検討してみると言ってくれた。でも、連絡があったかと思えば何か月も梨のつぶてで、イライラしっぱなし。最終的に、彼女はインタビューしたくないのだろうと判断した」

ホイットニーとクロフォードの過剰な仲の良さから、2人がひそかに恋人同士だったのではないか、少なくとも付き合っていた時期があったのではないかという憶測が絶えず飛び交った。ファンの中には、ホイットニーの心の痛みは本当の自分を世間に隠していたからだ、という者もいる。しかし、実際に事実を掘り起こしてみたものの、そのような事実は一切見つからなかったと監督は語る。「ホイットニーの人生がああなったのは、全て彼女がゲイだったから、という説を僕は信じていない。彼女には浮かれたところがあったし、セックスが好きで、ひょっとしたら女性と性的関係を持ったこともあるかもしれない。だからといって、彼女がレズビアンだったという説は短絡的すぎると思う」


子ども時代のホイットニー

この映画で明らかになった最大の秘密は、ホイットニーが子供のころ、叔母でシンガーのディー・ディー・ワーウィックから性的虐待を受けていたらしい、という疑惑だ。複数の人間が、ホイットニーが虐待を訴えていたことを証言している。ディー・ディーは2008年に他界しているが、ホイットニーの弟ゲイリーもまた、彼女に性的虐待を受けていたという。被写体を虐待したとみられる人物を名指しすることは、監督にとってとりわけ難しい決断だったと言う。「この分野の専門家たちに相談した結果、現在我々が置かれている状況を考えればこそ、正しい決断だと思った」と、監督は正直に語った。「怯えて暮らすのではなく、いまこそ立ち上がって声を上げる時だと、人々の背中を押すきっかけになるかもしれない、と思った。虐待の加害者たちから力を奪うことにもつながる」

Translated by Akiko Kato

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