モーゼス・サムニーが語る神秘的サウンドのルーツ、サンダーキャットとの出会い

―あなたのアルバムを聴いたときに、音楽のフォームとしては違うけど、ドビュッシーみたいな美しい不協和音をうまく使いたいのかな?と思ったんですが。

モーゼス:ドビュッシーは好きだよ! 彼の作品でハープを使った好きな1曲があったな。詳しくは勉強してないんだけど、そういうところも興味はあるよね。もっと知りたいとは思っている。

―ドビュッシーから影響を受けたアントニオ・カルロス・ジョビンのような人もいるわけですが、あなたの音楽にはブラジル音楽に通じる雰囲気もある気がします。

モーゼス:ブラジル音楽は大好きだよ。カエターノ・ヴェローゾ、ミルトン・ナシメント、ジルベルト・ジルとか。その中でもミルトン・ナシメントが特に好きかな。

―ミルトンのどんなところが好き?

モーゼス:まさしく「コントロールド・フリーダム」なところ。ソウルフルだし、誠実で自由なんだよね。それに、ヴォーカルのレイヤーの仕方がとんでもないんだ。

―いま出た「誠実(Honest)」って言葉は、あなたの音楽を示すキーワードのひとつじゃないですか?

モーゼス:うん、僕自身もフェイバリットな言葉のひとつだよ。


モーゼスが作成したプレイリスト「CHURCH 10.17」。ドビュッシーがハープ独奏と弦楽合奏のために作曲した「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」やミルトン・ナシメント「Francisco」のほか、クワイア系やポストクラシカル作品、アリス・コルトレーンや10CC、グリズリー・ベアなど新旧のナンバーがセレクトされている。

―ブラジル音楽に出会ったのは何がきっかけ?

モーゼス:LAのカルロス・ニーニョだね。彼が持ってるヴェニューに僕が出演していて、その繋がりでブラジル音楽のミックステープを2本もらったんだ。そこからミルトンやカエターノを聴くようになった。だから、ブラジル音楽にハマったのは最近の話だね。ただ、誰の演奏をきっかけに知ったかというとホセ・ゴンザレスなんだ。あのブラジル音楽にインスパイアされたギタープレイや、フィンガーピッキング、サンバっぽいグルーヴとか。彼の演奏は、僕のギターのスタイルに影響を与えていると言えるね。ちなみに、もうひとつの影響源はインターネットだよ(笑)。

―ギターも独学だと思いますが、あなたのプレイはユニークですよね。

モーゼス:なにせYouTubeで憶えたからね(笑)。僕はフォーク・ミュージックが好きだから、どうしてもフィンガーピッキングが多くなるんだ。

―それに独特のタイム感がある気がします。

モーゼス:それは自分で何をやってるかわかってないからじゃないかな(笑)。正式に勉強してないからこそ、ギターの演奏に関しても既成概念にとらわれることがないってのはあるよね。

―これから次のステージに進むために、どういうものを見たり聴いたりしてますか?

モーゼス:うーんと、映画かな。映画は感情のレンジが広いからね、歌や音楽では網羅しきれないエモーションの厚みや豊かさを得ることができる。僕はそういうものを音楽を通じて表現してみたいんだ。日本に来るときの飛行機でも映画を観ていたし、(監督でいうと)グザヴィエ・ドランの世界観が好きだな。

―音楽だとどうです?

モーゼス:いわゆるノイズが多いね(笑)。あとは日本のミュージシャンで吉村弘って知ってる? アンビエント、ミニマリズムの。最近よく聴いているよ。


吉村弘は2003年に亡くなった環境音楽の第一人者。82年発表の初作『Music For Nine Post Cards』が海外レーベルのエンパイア・オブ・サインズからリイシューされるなど、近年再評価が進んでいる。

―最後に。あなたの音楽は、とてもプリミティヴで古代の音楽みたいな雰囲気と、フューチャリスティックな新しさを持ち合わせていますよね。自分の音楽が持ってる「時代感」について、自分ではどう思いますか?

モーゼス:いま現在、音楽を作っているから「Now」だとは思うけど、「Now」っていうのは定義付けできないものだからね。「いまこの瞬間」も、次の瞬間には過去になってしまうわけで。僕の音楽にはそういう感覚があるのかもしれない。

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