ロック史に残るMVの金字塔、エアロスミス黄金期の「アリシア三部作」を振り返る

事実彼女は再び起用された。2作目となる「アメイジング」のテーマであるヴァーチャルリアリティは、1993年の時点で既にクリシェとなっている感は否めず(「サイバースペースに進入!」というフレーズには頭を抱えたくなる)、今見るとCGの技術はお粗末以外の何物でもない。しかし誠実さを歌ったパワーバラードの「アメイジング」は、ラスト4分間に及ぶジョー・ペリーのギターソロも含めて秀逸であり、エアロスミスの過去30年間において最も美しい曲だと言っていい(匹敵する曲があるとすれば「ジェイデッド」だろう)。

同曲のミュージックビデオでは、映画『バッド・チューニング』でカルト的人気を獲得していたジェイソン・ロンドンがハッカーに扮し、CD-ROMを使って自身をエアロスミスのビデオに投影することで、アリシアに会うという望みを叶えようとする。バイクにまたがった2人は夕日をバックに砂漠を駆け抜け、ヒッチハイクで複葉機を捕まえ、共にスカイサーフィンに興じる。しかし最後には、ジェイソンは自身が他者が作り上げた仮想現実の登場人物であることを悟る。彼をサイバースペース上に生み出した人物、それは他ならぬアリシアだった。



三部作を締めくくる「クレイジー」は1994年の春に公開された。アリシアとペアを組む少女がスティーヴン・タイラーの娘であるという事実は、当時は公にされていなかった。10代の不良少女を演じる2人(制服姿はお約束)は、フォードのマスタングに乗り込みジョイライドを繰り広げる。ガソリンスタンドで2人の万引きを容認するポーリー・ショア風の男への礼として、彼女たちはフォトブースで撮影したトップレスの写真をプレゼントする。小遣いを稼ぐべく出演したタレントショーで、ポールダンサーに扮したリヴは、父親へのあてつけとも受け取れるダンスを披露し、最前席で彼女を見つめていたビジネススーツ姿のアリシアに熱い視線を送る(ほどなくしてリヴはベルトリッチの映画に起用される)。

2人はドライブの途中で、農作業をしているセクシーな男を遊泳に誘う。服は汚れているが手は綺麗なままのその男は、エンジンをかけたままのトラクターから飛び降りてマスタングの後部座席に乗り込み、鼻をほじり、ジャド・ネルソンさながらに拳を突き上げる。奔放に振る舞う彼女たちを見ているうちに、視聴者はまるで自分が別の人間になったかのように感じ始める。しかし本作の最大の見所は最後のシーンだ。男が放り出したトラクターは、広大な農地に見事な「Crazy」の文字を描いていた。あまりに秀逸なエンディングだ。



Translated by Masaaki Yoshida

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