バイセクシャルとパンセクシャルの違いは何か?困惑するLGBTQコミュニティ

パンセクシャルの中にはさらに一歩進んだ人々もいる。「バイは排他的だという議論はつねに起きている。性の二元性を助長しているとね」と、トルトレッラも言う。「僕個人としては、そんなことはどうでもいい。バイはトランスジェンダーを無視してるっていう人も大勢いるけど、トランスジェンダーはそもそも性別じゃない。自らの性別を表現する、ひとつの修飾語に過ぎない」

10代そこそこでバイセクシャルだとカミングアウトした22歳のイーサン・レミラードも、トルトレッラと同意見だ。「男性とは肉体関係をもちたいけど、女の子とは恋愛したい。だから僕は自分をバイセクシャルと呼んでいる。でも、パンセクシャルだとは思わないな。だって、トランスジェンダーの男性も女性も、異性愛者の男女と変わらないもの」

自分のセクシャリティや性別にあえて名前を付けない人々がいるのも、このような理由だ。端的にいえば、ややこしいし、名前を付けられるのに息苦しさを感じる人も多い。それに、自分のセクシャリティは自分の性を知ることから始まる。男なのか女なのか、自分でもはっきり分からないのに、どうやって自分のセクシャリティを説明できるというのか?

こうした背景から、いわゆる「クイア」という言葉が使われるようになった。

「私はクイアと呼ぶようにしている。自分がどのジェンダーなのか、まだ確信が持てないから」というのは、23歳のアーティスト、ジル・B。「クイアは自分が成長して、学んで、いろんなことを理解する間、何でも当てはめられるオールマイティパスなのよ」

複数の呼び名を使い分けることを厭わない人もいる。「カミングアウトしたばかりのころは、バイセクシャルと呼ぶのがぴったりだと思った・・・クイアという言葉は自分とはかけ離れている感じがしたし、ちょっと学術的で、押し付けられてるみたいでね」というのは、26歳のLGBTQ活動家、ライアン・キャリー・マホニー。「でも大人になるにつれ、クイアはそういうんじゃないってわかってきた。クイアは、いろんなアイデンティティ――バイセクシャルだけじゃなく、他の全ても包括し、人々をひとつにつなぎ合わせる。コミュニティ全体を表現する時、“ゲイ”という言葉が多様性を表すように、“クイア”はコミュニティ全体を統合するんだ」

現在キャリー・マホニーは2つの名称を使っている。「自分にはどっちもしっくりくる。手袋みたいにね。本当だってば。どっちも上手く使いこなしてるよ」

面白いことに、トルトレッラは自らのセクシャリティを語るとき――単純に人類だという場合を除いて――会話の相手や内容によって、呼び名を頻繁に使い分けている。

「相手が保守的で、男女以外の性があるとは信じていない人の場合は、バイセクシャルという言葉を使うほうが無難。でも、ジェンダーやクイアの問題に精通していて、それぞれのニュアンスの違いを理解している人と話すときは、パンセクシャルとか“自由な性”という言い方をする」

この場合“自由な性”とは、性的対象が時間とともに変化し、状況によって変わるということを意味する。

だが彼は、バイセクシャルという言葉には長い歴史があり、それを尊重するのも大事なことだとも力説する。

「Bという略語はPよりもずっと前から存在していたし、それはそれで意味があるんだ」とトルテッラ。「(僕たちがクイアを名乗れるように)戦ってきた、コミュニティのパイオニアたちへのオマージュなんだよ」

このように考えるのはトルテッラだけではない。BRCのブロンディも、「バイセクシャルの歴史は、私も個人的にリスペクトしている」と語る。「何十年もの間、世間に認められようとバイセクシャルの名のもとで戦ってきた。自分たちの存在を知らしめてくれたのも、この名前。オクトーバーがもはや1年の8番目の月じゃなくなっているみたいに((訳注:Octoとは、本来ラテン語で「8」を意味する))、バイセクシャルという言葉も当初とは意味が徐々に変わってきているんだと思う」

Translated by Akiko Kato

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