チバユウスケが語る「変わらない」音楽への姿勢とその美学

チバに初めてインタビューをしたのは数年前だが、そのインタビューのことは今でもハッキリと覚えている。そのときも缶ビールを片手に取材部屋に現れたチバは既にほろ酔いだった。インタビューは無事始まったが、今度はロング缶のビールを開けた。インタビューが進み、いくつかの質問をし、その質問の答えを熟考しているように見えたチバだったが、しばらくして気づいたら……寝ていた。スタッフが気付きチバの肩を揺らすと、目を覚ましたチバは開口一番こう言った。「おかわり」と。

その話をこの日あらためてすると、「ウソだろ? 本当に俺、寝てたの?」と驚いた後、「バーにいる夢、見てたんだろうね」と屈託なく笑ってみせた。ちなみに、そのときのインタビューでチバはとびきり素敵な言葉を残してくれた。どんな想いで音楽を奏でているのか?と聞くと、「こいつクズだなぁって思うヤツはいるんだけど、でも今は俺、それすらOKしたいと思ってる。どんなクズなヤツでも、『いいよそれで』って言ってあげる。ムカつくことにムカつかなくなりたいんだよ。いろんなことに『そうだよね』って言ってあげられたらって思う」と答えてくれた。

この言葉、今でも大好きで時々反芻している。では、今はどんな気持ちで音楽を奏でているのだろうか? 「今まさに、このスタジオで曲作りをしているんだけど、それは楽しくもあるし、つらいよね。レコーディング期間が始まると、またあの地獄かと思うけど、天国でもあるんだよ」と教えてくれた。メンバーと何十時間もスタジオにこもり、誰も正解なんか分からないなかで、楽器を鳴らし、音を紡いでいくのは、途方もない作業のはずだ。そんな五里霧中のレコーディングでチバは一体何と戦っているのだろうか? そんな質問を投げかけると「別に世の中と戦っているわけじゃないからね、俺の場合は。まぁ他のヤツがどうやってるかはわかんないけど、俺は自分がこれはすごいと思うものを作り上げる。それだけだよ。俺がつまんないと思ったらやりたくないしね」と答えてくれた。



とはいえ、経験を積んでくれば、理想は高くなる一方で、現実も知ってしまう。しかも深刻な音楽不況の中で売れるために妥協することを覚えてしまうバンドだって正直少なくない。だが、チバは言い切る。「音楽に関して、一切妥協はない」と。

音楽への姿勢も生き方も変わらないチバ。ライフスタイルも当然のように変わらない。先述の寝落ちインタビューのときも携帯電話を持っていないと言っていたが、未だに携帯を持っていないと教えてくれた。少し驚くと、「別に持ってなくてもこと足りるから」と平然としている。ただし、メールはやるとのこと。本人的には“IT化も徐々に進んでいる”と持論を展開していた。

そんなチバとインタビュー中にAIの話になった。既に音楽においても、作曲などの面でAIの活躍が目覚ましい。気が遠くなるほど長い時間スタジオにこもりレコードを制作し、その後はメンバーとツアーを回るという生活を何十年と繰り返しているチバにとって(しかも携帯電話すら持っていないのだから)、AIの活躍なんて、とんでもないのかと思っていた。ところが意外な言葉が飛び出した。「別にAIが音楽を作ってもいいじゃん。AIが作ったとしても、それを聴いてスゲーと思えたり、楽しい気分になれたりするなら俺は別にいいというか、そんなの自分には関係ない。逆に何で誰が作ったとかにこだわるの?」とどこまでもフラットだった。確かに誰が作ったかより、どれだけ心に届くかが、音楽をはじめとするあらゆる表現において大切なはずで、チバの言葉にドキリとした。

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