マイク・シノダ1万字インタビュー:チェスター・ベニントンの死と自身の現在地

ベニントンがこの世を去った後、シノダは数回ステージに立っている。最初に行われたリンキン・パークによる追悼コンサートでは、彼は「心身ともに消耗した」と話す。「俺はステージに立ちっぱなしで、ほぼずっとヴォーカルを担当してた」彼はそう話す。「やり遂げるために、俺は文字通り自分の限界に挑戦しなきゃいけなかった。でも結果にはすごく満足したよ。それまでは長くても90分だったけど、あの日俺たちは3時間以上演奏した。チェスターの死を悼む人々、そして区切りをつけようとする人々の背中を押すことができたと思ってる」

ファンの間でもあまり知られていないが、当日シノダは身につけていたイヤーモニターで、曲のキューとしてベニントンの声を聞いていたという。「俺の中で、曲のイメージはすっかり固まってしまっているんだ。だから残されたメンバーで曲を演るには、そのための方法を考えないといけなかった」彼はそう話す。「タイミングに確信が持てない場合は、アルバムの音源を流せるようにした。俺のパートはいつも掛け合いだから、ガイドとしてもう片方のヴォーカルが必要だったんだ」

当日のコンサートにはブッシュのギャヴィン・ロスデイル、コーンのジョナサン・デイヴィス、アヴェンジド・セヴンフォールドのM・シャドウズ等をはじめとするロック界最高峰のヴォーカリストたちが登場したが、イヤーモニターを通してベニントンの声を聞いた経験は、バンドに重要なことを気づかせたという。「翌週、コンサートの音源を聴き返しながら思ったんだ。みんなすごいヴォーカリストではあるけど、誰もチェスターの代わりを務めることはできないって」彼はそう話す。「あいつのヴォーカルはまさに唯一無二だった。トーンもそうだけど、特にレンジが圧倒的だった。あいつはどんなスタイルの曲も歌いこなした。あいつを失った今、俺たちは自分たちがすべきことについて考えないといけない。ひとつだけ確かなのは、平凡なヴォーカルを迎え入れて、あいつのパートを中途半端に歌わせることは避けるべきだってことだ」

リンキン・パークの今後について考える前に、まずは『ポスト・トラウマティック』がどう受け止められるかを見極めたいとシノダは話す。5月にソロのミニツアーを開催した際、当初こそ感情の波に飲み込まれそうになりながらも、自信をつけるまでに長くはかからなかったという。「すごく緊張したけど、ショーの半分を終えた頃にやっと落ち着きを取り戻して、マイクを通してオーディエンスにこう話したんだ。『一番ハードな部分を乗り越えたから、最後までやれるはずだ』」彼はそう話す。「決して感極まったわけじゃないんだ。ただ過去のショーとは何もかもが違ったから、覚悟を決めるまでに少し時間がかかったってことさ」

当日のセットリストは『ポスト・トラウマティック』の曲やリンキン・パークのトラックだけでなく、シノダの別プロジェクトであるフォート・マイナーの曲も交えられていた。その内容は今後変わっていく予定だという。「今はいろんな選択肢を残しておきたいんだ」そのスタンスは、ショーの内容が(ベニントンに対する)トリビュート的だとする批判を受けてのことなのかもしれない。「そんなつもりはないんだけどね」彼はそう話す。「トリビュート的な部分もあるかもしれないけど、それはあくまでショーの一部でしかない。後日、あのショーがトリビュート的だったかどうかファンに意見を求めたんだけど、大半はそうじゃないって言ってくれた。メディアはアクセスを集めるヘッドラインを立てようとするもんなんだよ」

彼は席を立つと、飲み干したコーヒーの隣で手付かずのままになっていたマフィンを手に取った。どんなことがあったとしても、自分が置かれている状況を受け入れて前に進み続けること、それが彼がファンと共有しようとするマインドセットだ。「アートには傷を癒す力がある」彼はそう話す。「俺は大切ものを失い、悲しみに暮れていたけれど、こうしてまた再び歩き出した。このアルバムが、同じように感じてる誰かの背中を押してくれることを願ってるよ」



ポスト・トラウマティック
マイク・シノダ

『ポスト・トラウマティック』
発売中
https://wmg.jp/mike-shinoda/discography/19373/

SUMMER SONIC 2018
マイク・シノダは8月18日(土)大阪、19日(日)東京に出演。
http://www.summersonic.com/2018/

Translated by Masaaki Yoshida

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