パンテラと故ヴィニー・ポールは、いかにメタルという芸術を革命的に昇華させたのか

故パンテラのドラマーのヴィニー・ポール(右から2人目)(Photo by Ron Galella, Ltd.)

米国時間6月22日、ヘヴィメタル・バンド、パンテラのドラマーで結成メンバーだったヴィニー・ポールが54歳で他界した。今の時代に彼らの楽曲を聴いても驚異的な90年代のアルバムであり、滑らかでありながら過酷なサウンドを生み出し、それが次世代のサウンドの基準となった。故ヴィニー・ポールがバンドと共に90年代のヘヴィメタル・サウンドを革命的に変えた軌跡を振り返る。

「あの時点での俺たちは一組の戦隊だった」と、2012年のローリングストーン誌のインタビューで、1992年にリリースされた『俗悪/Vulgar Display of Power』を振り返りながらヴィニー・ポールが語った。このアルバムはローリングストーン誌が選ぶ最高のメタル・アルバムで10位に入っているほど、その後のメタル界に大きな影響を与えた作品だ。同インタビューでポールはこう続けた。「俺たちはそれぞれの一番良い部分を引き出したし、アルバムを作るごとに俺たちの音楽という山脈の標高がどんどん高くなった。『極悪』のあと、俺たちは『悩殺/Far Beyond Driven』を作る必要に駆られたのさ。あのレベルに行くのが自然だったし、それがアルバム・タイトルにも表れていた」。

アルバムをリリースするたびにハードさとヘヴィーさが増すことを自慢気に話すのはメタル・バンドにありがちだが、パンテラの場合はその言葉に嘘はなかった。彼らが90年代に出したアルバム、つまり1990年の『カウボーイズ・フロム・ヘル/Cowboys From Hell』、1992年の『俗悪』、1994年の『悩殺』(この作品はビルボード200で1位を記録し、ローリングストーン誌が選ぶ最高のメタル・アルバムにも入っている)、1996年の『鎌首/The Great Southern Trendkill』で、このタイトなメタル・カルテットが自力で到達したのは残忍性と攻撃性の新たな高みであり、同時に進化の過程でメタルという音楽の基準をどんどん引き上げていった。

「連中が全部変えちまった」と、ザック・ワイルドが2014年にビルボード誌で語っている。「音楽の方向性という点だけじゃなくて、レコードのサウンド自体も激変させた。プロダクション面だと、パンテラのレコードこそがエクストリームメタル界のT型フォードってことだ。つまり、『このスタイルのレコードはこのサウンドみたいに作らないとダメ』という手本。ドラムはあのアルバムのようにレコーディングして、ミックスする必要がある。そうしないと、ギターとベースの轟音の壁に阻まれて聞こえない!」と。

もちろん「ビカミング/Becoming」、「マウス・フォー・ウォー/Mouth For War」、「プライマル・コンクリート・スレッジ/Primal Concrete Sledge」に合わせてヘッドバングしたファンなら納得のはずだが、彼の弟ダイムバッグ・ダレルのギターが奏でる異次元の閃光、ヴォーカリストのフィル・アンセルモの血管が浮き出るほどの絶叫がパンテラの攻撃性の重要な要素で、すべてを統合する役割を担っていたのがポールのパワフルなドラミングだった。ポケットにズバッとハマったプレイを続けながら、一群の暴徒の足音のような轟音を響かせて、バンドのグルーヴ・メタル的なアタックを形成していた。さらに、最高のサウンドに対するポールの飽くなき探求が、彼と長年のプロデューサーのテリー・デイトに、ポールのビート同様に限界を常に超え、聞く者に畏怖を覚えるほどのドラム・サウンドを作り出させたのである。ちなみにテリー・デイトはアルバム『カウボーイズ・フロム・ヘル』から『鎌首』までをプロデュースしている。

「やってもいないのに、ドラムをサンプリングしているっていつも叩かれていた」と、デイトが2005年にRevolver誌で語った。「本当に一度たりともそんなことはしていなかった。あのドラム・サウンドはすべて細心の注意を払って厳選したサウンドで、あのサウンドを作るために本当に必死に作業したんだ。そして、サウンドが決まると、もちろん、演奏も完璧になるまでプレイし続けたよ」。

もともとパンテラの楽曲はダレルのギターリフから生まれていたが、ポールのドラムビートがあまりにも凶暴で、それにインスパイアされたダレルがビートを基に曲を作るようになった。「ビカミング」が生まれたきっかけは『悩殺』のレコーディング・セッション中にポールがダブルストロークのバスドラム・パターンをあれこれ試していたことだった。「俺は何も考えずに、ドラムソロに使えるかも…ぐらいで叩いていただけだった」と、2014年にローリングストーン誌でポールが述べた。「そのパターンの一つを聞いたダイムが突然やってきて、『ちょっと待って、俺、ギター持ってくるから』って。そこで新曲が完成したのさ」。



Translated by Miki Nakayama

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