未完成だからこその魅力、XXXテンタシオンがシーンに与えた影響とは?

ポスト・ストリーミング世代のアイコンだったXXXテンタシオン(Photo by Dan Garcia)



「Look At Me!」がヒットした直後の2017年、彼はデビュー・アルバム『17』を発表する。22分に満たない同作で、彼はうつ症状や失恋、そして自殺願望を赤裸々に告白している。デモ音源であってもおかしくないそのサウンドは、まるでアンプラグドのマイ・ケミカル・ロマンスがトラップのビートに合わせてジャムっているかのようだった。レコード会社は付いていなかったが、ディストリビューターのエンパイアを介してデジタル配信された同作はチャートで最高2位を記録し、11曲中7曲がビルボードHot100にランクインした。

2017年末、XXXテンタシオンは600万ドルでキャロラインとレコード契約を交わしたが、その後もPitchforkやNoisey、Uproxxといったメディアはこぞって「女性に暴力をふるうラッパーをボイコットせよ」「どれほど優れたラッパーであっても、常識に欠ける人間は評価するに値しない」「収監されているXXXテンタシオンの音楽がもてはやされる状況への違和感」という趣旨の記事を掲載していた。

しかし実際のところ、XXXテンタシオンはインタビューや好意的なレビューに一切頼ることなくブレイクを果たしていたため、メディアのそういった姿勢が彼のキャリアに影響を及ぼすことはなかった。彼がキャロラインとレコード契約を交わすまでに辿ったルートは、音楽業界における通常の過程とはかけ離れていた。彼にはレーベルやプレスはおろか、ラジオや深夜のTV出演も必要なかった。

唯一のそれらしいサポーターは、顔にタトゥーを施したYouTubeスターのマネージャーだった。結果的に撤回されたものの、Spotifyは彼を含むプライベートで問題を起こしたアーティストを処分するためのポリシーを定めた。またビルボードは彼のようなアーティストの成功を妨げようとするかのように、チャートのアルゴリズムを見直すことを発表した。

XXXテンタシオンにかけられた疑惑は音楽業界の人間を遠ざけたが、彼の主なファン層である10代のストリーミング世代のリスナーにとっては、むしろ彼の神秘性を高める一因とさえなっているように思われた。インターネットの大衆主義的な習性を利用し、80年間続いてきた音楽業界の枠組みとはまるで異なるところで成功を収めた彼は、ある人々にとっては悪夢のような存在だった。キャロラインからリリースされたセカンド・アルバム『?』は、当然のごとくチャートの首位を獲得した。

XXXテンタシオンのあまりに短いキャリアは、パンクのパイオニアであるザ・ジャームスのシンガー、ダービー・クラッシュの人生を彷彿とさせる。アートに全精神を注ぎ、なりふり構わず感情を爆発させ、ローファイであることに徹底的にこだわったクラッシュは、1980年に22歳の若さでこの世を去った。ケンドリック・ラマーは昨年、XXXテンタシオンのアルバムについて「感情的なものを欲しているなら、このアルバムを聴いてみるといい。ものすごくリアルだ」とツイートした。

ザ・ジャームスがそうだったように、血の匂いを漂わせるXXXテンタシオンの音楽は多くの人々を惹きつけた。ローファイで未完成、エモと形容されるサウンドを追求するラッパーは少なくないが、リアルな切迫感を感じさせるものはほぼ皆無だといえる。同じくフロリダ出身のSoundCloudが生んだラップスター、リル・パンプは最近SNLのスケッチでパロディとして描かれていた。現在Hot100チャートを賑わせている、アコースティック・ギターのストロークとクリスピーなベースがリードするジュース・ワールドの「Lucid Dreams」、リル・パンプのノイジーな「Esskeetit」、リル・スカイズによる典型的なSoundCloud産ポップ・ラップ「I Know You」等は、すべてXXXテンタシオンの影響下にある。今後はそういった曲がさらに増えていくに違いない。

Translated by Masaaki Yoshida

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