ブルース・スプリングスティーン『闇に吠える街』あなたが知らない10の真実

3. このアルバムのサウンドと姿勢は部分的にイギリスのパンクの影響を受けている。

「無駄なものを削ぎ落としたサウンドを追い求めていた。怒りのこもったサウンドっていうのかな」と、スプリングスティーンがドキュメンタリー『闇に吠える街 The Promise〜』で当時を思い出しながら語っている。(スプリングスティーンのレーベルの)コロンビア・レコードの全スタッフも、共同プロデューサーのジョン・ランドーも『闇に吠える街』で再現してほしいと願ったのが『明日なき暴走』で完成した“成功のフォーミュラ”だ。しかし、スプリングスティーンはそれを否定する決断を下した。「曲のタフさを増したかった。情け容赦のないサウンドの作品にしたかったのさ」と、スプリングスティーン。

「バッドランド」、「アダムとケイン」、アルバムのタイトルトラックにはタフで怒りのこもったサウンドが確かに合っていた。しかし、その一方で、スプリングスティーンは、セックス・ピストルズやクラッシュなどのイギリスのパンク・バンドが投げつけた攻撃性も取り入れていた。「『闇に吠える街』はあの頃のパンク・エクスプロージョンの影響も受けていた」と、2012年のSXSWでの基調演説でスプリングスティーンは観客に語ったのである。「俺はある日、初期のパンクのレコードを全部買って帰った。その中には『アナーキー・イン・ザ・UK』も『ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン』もあった。彼らは勇敢で、世間に挑戦状を投げつけ、俺たちも勇敢にしてくれた。そういうパンクのエネルギーがあのアルバムの根底に流れている。『闇に吠える街』の楽曲が作られたのは1977年で、パンク全盛期だった。音楽をやっている人間には無視できないスタイルだったのさ。俺と同じようにパンクを無視できなかった同世代のミュージシャンがけっこういるよ。確かにパンクは誤解されていた。でも、あの音楽的なチャレンジを無視できる人間なんていなかったはずだ」と、スプリングスティーンが述べた。

4. アルバムの歌詞を完成できた背景には、スプリングスティーンがカントリーミュージックの良さを知り、大いに気に入ったことが関係している。

アルバムの音楽に刺激を与えたのがパンクだとしたら、このアルバムの歌詞、特に「ファクトリー」や「闇夜に突走れ」は、スプリングスティーンのソングライティングにカントリーミュージックの影響が色濃く表れ始めたことを露呈している。それまでカントリーを無視してきた彼だが、カントリーの表面上はシンプルに見える歌詞の奥深さに魅了され、テーマの埃っぽさと運命論者的な視点にハマったのである。

「カントリー・ミュージックの中に、大人のブルースや労働者階級の男女の物語という、俺が探し続けていたものを見つけた。違うと思っていたものに正解を見つけるという不気味な状態だったけど」と、スプリングスティーンはSXSWの基調演説で述べた。「最初は『Working Man’s Blues』という曲だった。日常生活をストイックな目で見ていて、大小さまざまなことが一歩前に踏み出すきっかけになり、そうやって人は毎日を過ごすという歌詞だった。カントリーの運命論者的な視点に魅力を感じたよ。思慮深いと思ったし、面白いとも思ったし、ソウルフルだとも思った。でも、かなり宿命論的だったし、カントリーが歌う明日はかなり暗いって思えたよ」と。

5. 『闇に吠える街』のセッションから生まれた最大のヒット曲は、アルバムに収録されずに他のアーティストがカバーした曲だった。

『明日なき暴走』から『闇に吠える街』をリリースした頃までのスプリングスティーンは、ソングライターとして最も多産な時期だった。実際に『闇に吠える街』のために作った曲は推定52曲〜70曲か、それ以上と言われている。そのため、おこぼれに預かったアーティストがたくさんいるのだ。例を挙げると、サウスサイド・ジョニー、ロバート・ゴードン、グレッグ・キン、ゲイリー・U.S.・ボンズなど。彼らはスプリングスティーンがこのアルバムの荒涼とした雰囲気に合わないと外した曲をレコーディングしたのである。このアルバム収録曲で全米トップ40に入った曲が「暗闇へ突走れ」だけ(最高33位)なのに対し、二組のアーティストは結果的に大ヒット曲を提供してもらった。一組目はポインター・シスターズで、彼女たちがレコーディングした「ファイア」は音楽チャートの2位まで一気に駆け上ったのである。スプリングスティーンによると、この曲はエルヴィス・プレスリーのために1977年に作られたものとのこと。もう一組はパティ・スミスで、「Because The Night」が全米で13位、イギリスで5位まで到達した。

アイオヴィンはスプリングスティーンの『闇に〜』の作業中に、同時進行でスミスのアルバム『イースター』も作っていたため、未完成の「Because The Night」をスミスに渡したのである。当時、遠距離恋愛中のスミスと彼女の未来の伴侶フレッド・“ソニック”・スミスからインスパイアされたバース部分を加えたのはアイオヴィンだ。「あの曲は完成できない確信があった。だってラブソングだったし、あの頃の俺はラブソングの書き方なんて知らなかったから」と、スプリングスティーンが『闇の吠える街 The Promise〜』でスミスに提供したことについて語っている。「『Because The Night』のような本物のラブソングを作る気はなかった。きっと当時の俺はラブソングを書く意気地がなかったと思う。彼女は勇気があった。ほんと、度胸があったよ」と。

Translated by Miki Nakayama

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