全世界大ヒットTV番組「カープール・カラオケ」プロデューサーが語る制作裏話

「ザ・レイト・レイトショー with ジェームズ・コーデン」 “カープール・カラオケ”に臨むショーン・メンデス ( Terence Patrick/CBS)

全米を超え、今やインターネットを介し世界中で爆発的人気コンテンツとなった「カープール・カラオケ」を展開しているテレビ番組「ザ・レイト・レイトショー with ジェームズ・コーデン」。番組の屋台骨である女性プロデューサーのダイアナ・ミラーが、カープール誕生秘話や制作裏話からショーン・メンデスの出演交渉エピソードまでローリングストーン誌に語ってくれた。

それは歯ブラシで幕を開けた。3月後半、「ザ・レイト・レイトショー with ジェームズ・コーデン」のオンエア。番組司会者のジェームズ・コーデンがコーヒーカップに手を伸ばすと、なぜか、マグカップから歯ブラシが顔をのぞかせていた。「何これ?いったい何事だ?」 甲高い声で尋ねるコーデン。バンドマスターのレジー・ワッツは俺じゃないと首を振る。スタッフもみな、なぜ歯ブラシがそこにあるのか見当もつかないと答えた。そこへ現れたのが、ポップ界の貴公子ショーン・メンデス。彼がステージへあがり、マグカップを手に取ると、観覧席からは鼓膜が破れんばかりの黄色い声援が沸き起こった。

「午後、サウンドチェックの時に忘れちゃったみたいだ」とメンデス。「演奏後は、何よりも口腔衛生に気をつけているんでね」と、白い歯をのぞかせて観客に笑顔を向けた。そう、これは番組の演出。今週からオンエアされるショーン・メンデスの4週連続出演の告知は、こんな風にして行われた。ショーン・メンデスがやってきますよ! そのままメンデスは、新曲「In My Blood」を初お披露目した。

「うちの番組で彼の新曲を世界初オンエアできたなんて、大金星だわ」と語るのは、番組プロデューサーのダイアン・ミラー。この回がオンエアされた翌日、ローリングストーン誌とのインタビューに応じてくれた。「連続出演は、ジェームズやエグゼクティブプロデューサーも交えて、全員で会議を開いて決めたの。最終的にはジェームズの鶴の一声。『ショーン・メンデスがいいと思う。最新ミュージックや若い視聴者を取り込んでいきたいんだ』自然な流れで決まったわ。それからオンエアの2日前に、ジェームズが事前告知のアイデアを持ってきた。“君がいたら楽しいだろうな~、ちょっと遊びに来ない?”っていう、TVでは昔からよくやる、あの手法よ」

2015年にコーデンが「ザ・レイト・レイトショー」を引き継いで以来ずっと、ミラーはミュージシャンのゲスト出演を担当してきた。アーティストが“フリンチ”のような企画ゲームに参加するときは、構成作家や他のプロデューサーたちと共同で進める。この時の放送では、他のゲストに交じってメンデスも“フリンチ”に挑戦。司会者が次々と放つフルーツ弾をかわしながら、ドリンクをこぼさないよう奮闘した。また、番組の目玉企画“カープール・カラオケ”でもコーデンとふざけ合った。非常に多くを求められる仕事――弊誌がインタビューした3月の時点で、彼女はすでに6月分の出演依頼を進めていたのだから!――だが、彼女はキャリアをスタートして以来、うまくやりこなしてきた。

ミラーがこの仕事を始めたのは2001年。「ラスト・コール・ウィズ・カーソン・デイリー」のゲストブッキングの仕事を手に入れた時、彼女は大学を卒業したばかりだった。広報をしている友人がアシスタントへ推薦してくれたのだ。コメディアンの担当からスタートして、のちにミュージシャンを担当。そこでチャンスが巡ってきた。「ネタのリストを作って持って行ったら、みんなから『何考えてるんだ?本気で言ってるのか?』って顔で見られたわ。でも、あの時のリストが今の番組作りに活かされているのよ。有言実行というやつね。自分の直観を信じるだけじゃなく、それを形にできるかどうかが大事」と語るミラー。カーソン・デイリーの番組を離れた後はフリーランスとしてMTVやNPRでしばらく仕事をしたが、ゲストブッキングの仕事が忘れられず一念発起。クレイグ・ファーガソンが「レイト×2ショー」を降板するとの話を聞きつけ、CBSの深夜番組担当者に直談判し、見事採用の運びとなった。

「実際にいざ進めてみるとかなり大変だった。だって、誰もジェームズ・コーデンが何者か知らないんだから」と、ミラーは当時を振り返る。「彼が私のオフィスにやってきて“カープール・カラオケ”のアイデアを持ち込んできたとき、私にはちんぷんかんぷんだった。彼は『なんで誰もやらないのさ?』って言ってたわね。その日の番組ゲストを全員まとめてソファに座らせるのだって、大きな賭けだった。でも他の番組との差別化ができたから、最終的には思い切ってやってよかったと思う」 以来、番組は足掛かりをつかみ、NBCの「レイト・ナイト・ウィズ・セス・マイヤーズ」の裏で着実に視聴率を伸ばしている。

メンデスの4夜連続出演が今週からオンエアされるにあたり、ミラーに毎日の仕事ぶりや新たな挑戦について聞いてみた。「すごく頭が痛い仕事だけど、すごく楽しい。大好きな番組、それも自分が本当にいいと思う番組で仕事ができて、恵まれていると思う」

ー音楽ゲストの出演担当者の1日はどんな感じですか?

深夜の番組で仕事ときは、用意周到であることが大事。毎日その日のオンエアが控えているから、考える時間はあまりないの。その日のオンエアをこなしつつ、その先のプランを練らなきゃいけない。

月曜から木曜は、毎朝10:30に制作会議。それから先々の番組の準備に取り掛かる。そのあとバンドが局入りして、サウンドチェック。つねにメールチェックやら電話やら、リサーチやら、いろんなことを同時にやっているわ。自分でもできるだけ情報収集を心がけている。ツアースケジュールを確認したり、世の中で何が起きてるのか最新情報をチェックしたり、一緒に仕事をする人たちと直接会って話をしたりとかね。その日によってやることはいろいろ。とにかく、あちこち駆けずり回りっぱなしよ。時々スタッフと、『今日の番組ゲストは誰だっけ?』なんて冗談を言うこともあるの(笑)。そこまでいくと、頭の中が6月のブッキングのことでいっぱいで、『あれ、今日は何曜日だっけ?』という始末。こんな状態の連続ね。

ー日ごろ、どのぐらいストレスを感じていますか?

場合によりけりね。最初のころは、あまりのプレッシャーで文字通りいまにも吐きそうだった。でも経験を積んで変わったわね。ビッグなアーティストをブッキングしなくちゃいけないとか、ものすごいプレッシャーを感じる週もある。そんなときはストレスもMAX状態。でも忙しくしてるほうが好きね、忙しくしてる最中はストレスを忘れられるもの。私はただ待っているよりも、動いてる時のほうが発揮できるタイプ。自分ではどうしようもない状況の時が一番ストレスを感じるわ。

昨日はショーン・メンデスがゲストだったから、特に忙しかった。50のことをいっぺんにこなさなきゃいけなかったのよ。しかも、どれひとつとして疎かにはできないことばかり。「ちょっとタイム!」って言いたくなるぐらい、物事の流れに飲み込まれて考える暇もない感じだった。でも今日はオフでしょ、目が覚めたら「なんで昨日、あんなにテンパってたんだろう?」って思うのよね。

Translated by Akiko Kato

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