ローリングストーン誌が選ぶ「5月のベスト・ラップ・アルバム」トップ10

プシャ・Tとレイ・シュリマー(Photo by Shutterstock.com)

連日サプライズ・リリースが続いているヒップホップ・シーン。今回は、プシャ・Tからエイサップ・ロッキー、レイ・シュリマー、プレイボーイ・カルティまで、ローリングストーン誌編集部がオススメする5月のベスト・ラップ・アルバムをご紹介しよう。


1. プシャ・T『デイトナ』

「アル・ロッカーの天気予報がスノー(コカイン)をお知らせするぜ」プシャ・Tがリリースした7曲入りアルバム内の「イフ・ユー・ノウ・ユー・ノウ」でのパンチラインだ。しかし今アルバム『デイトナ』は2000年代頭からのコカイン・ラップのマスターによるドラッグ・ディールに関するラップというジャンルだけには収まらない。パンチラインと比喩を使いこなすプシャはラッパーとドラッグ・ディーラーの物語を使って、危機的状況にあるストリートの現状を伝えているのだ。「俺の夢のジャマはするなよ。もしくはハーヴェイ・ワインスタインみたいなことをして欲しいのか。おはようマット・ラウアー。俺は生きていられるか?」と言及しているのはセクハラ事件を起こした2人の大物だ。「ワット・ウッド・ユー・ミーク・ドゥー」ではアキネリによる96年のセックス・ラップのヒット曲「プット・イット・イン・ユア・マウス」を連想させる「馬乗りになって、アキネリの審判をあおぎな」というリリックも。同曲上でのカニエ・ウエストのバーの感情むき出しのリリックと、ラフでミニマルなトラックが補完しあっていて、カニエがまだプシャ・Tのクリプス時代のクラシックである『ヘル・ハス・ノー・フュリー』の影に取り憑かれてるかのような印象を受ける。それもカニエにとってはMAGA(メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン:トランプのスローガン)の帽子についてツイッター上で言い争いをするよりも遥かに意味のあることなのである。



2. エイサップ・ロッキー『テスティング』

エイサップ・ロッキーの新作は過去の彼の作品の多くと同様に、ラップだけでなくアルバム自体の完成度が非常に高い。ファースト・シングルで、モービーのダウンビート・ヒット「ナチュラル・ブルース」のループをサンプリングした「エイサップ・フォーエバー」を聞いてもそれは明らかで、モービー自身が20世紀初頭のフィールド・レコーディングからサンプルしたこのループを使用して、予測不可能かつ印象的な形でアルバムが始まる。 ジェルー・ザ・ダマジャを迎えた「コールドロップス」はコダック・ブラックが刑務所からの電話においてラップしている設定で彼の声はノイズがかかっていて、トラックではジェルー・ザ・ダマジャのクラシックとスカーフェイスの声がサンプリングされている。南部のプロデューサーが多用するスクリュー(レコードを45回転から33に落としてスロー再生になった音源を使用すること)やチョップといったテクニックがアルバム全体、特にロッキーがNYのハーレムのストリートで過ごした少年時代を回想する「ハン・フォー・サード」で多用されている。トラヴィス・スコット等からもリスペクトを受けるロッキーのラップは、深い意味を持たないようで本質に迫り、彼の言葉は自慢や誇張になることなくエンタテインメントといて成立しているのだ。「トニー・トーン」内のリリックで宣言している「人々は俺のことを最低の男だと思ってるけど、自分が本当に考えたことを心から言っているだけさ」という歌詞の通り、彼自身がどんな人間であろうとこの作品の評価が落ちることはないだろう。


3. ブロックボーイJB『シミ』

ブロックボーイJBはメンフィス出身のMCで、出世曲「ルック・アライヴ」その名を世に知らしめた。この強烈なトラップ曲は業界のキングであるドレイクのサポートもあり、YouTubeやサウンドクラウド等の各ストリーミング・サイト上で大ヒットになったのだ。今作の『シミ』でのブロックボーイはスリー・シックス・マフィアの「イエー・ホー」をサンプルした「レフト・ハンド」でも分かるようにメンフィスのヒップホップを継承している。MCのスタイル的に言えば、ヤング・ドルフのように自身に溢れている訳でもなければ、ヨー・ゴッティのようにフックを作るのが上手いわけでもない。実際に「アジアン・ビッチ」ではマネーバッグ・ヨーのほうが目立っていて、アジア人に対するステレオタイプを歌ったこの曲はジェイ・Zのヒット「ガールズ・ガールズ・ガールズ」の劣化サウス版といえるのではないだろうか。ただしブロックボーイは21サベージを迎えた「ローバー2.0」やチーフ・キーフのようにオフ・ビートなフローで歌いこなした「ウエイト」のように実力派ラッパーとしての一面も見せている。フロアの人気も出るであろう「ママチータ」では「お前は悪魔と踊り、俺はシンデレラと踊るのさ」とライムしている。

Translated by Hiroshi Takakura

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