デヴィッド・リンチが語る、映画『ブルーベルベット』裏話とスマホ時代

ー『ブルーベルベット』は、“もしも…なら?”的な夢から生まれたということでしょうか?

いいや。映画は抽象的なものを表現できる、ということを言いたかったんだ。言葉では言い表せないものごとを表現できるんだ。運が良ければ、ストーリーの途中におけるその手のアイディアが時たま浮かんでくることもある。それは言葉では表現できない。必ずしもさまざまな感情である必要はなく、悲しみの感情や、魔法で別の感情を呼び起こす抽象的なもの。それら抽象概念がひとつの映画の中に存在するんだ。映画には抽象的なものを語らせることができ、そしてもちろん、具現化できる。

ー『ブルーベルベット』は、ドロシーと彼の息子とのシーンで終わります。彼女はとても幸せそうに見えます。その後の彼女に何が起こるのかを想像したことはありますか? 彼女はPTSDを抱えたと思うのですが。

いいや、それはない。映画はそこでジ・エンドだから(笑) でも、間もなく出版される『Room to Dream』という本のタイトルはここから来ている。エンディングには、その後に夢を持たせる余地を残しておける。だから、君の指摘したことは的確だ。人はそれぞれが、先へと想像を働かせることができる。

ー『ツイン・ピークス The Return』であなたは最近、それを実践に移しました。自分で体験してみて、どのような気分でしょうか?

いい気分だ。

ー今後も続けていきたいという気分でしょうか?

それについては話せない。

ー現在、新たな映画のプロジェクトに取り組んでいますか?

今は絵を描いているよ。

ー『ブルーベルベット』には、夜の暗い道を映し出すロング・ショットがあります。これは『ロスト・ハイウェイ』や『ツイン・ピークス』でも見られる手法です。そこでアピールするものとは何でしょう?

未知の世界へ飛び込むことは、人にとって恐ろしいことで、エキサイティングでもあり、希望に満ちている。

ー同様に『ツイン・ピークス』で“ブラック・ロッジ”のセットに入った時、どのような感情が生まれたでしょう? 温かい感情でしょうか?

私は“レッド・ルーム”と呼んでいる。レッド・ルームは、ある種の接合点のようなものだ。良い感情を持てる時もあれば、そうでもない時もある。

ー奇妙にも心地よさそうに思えます。

ああ、あそこの椅子は座り心地がいいよ(笑)

ーこの週末のイベントでは、多くの素晴らしい音楽を楽しめます。最近のお気に入りはありますか?

実はジュニア・キンブロウを繰り返し聴いているんだ(笑)

ー彼の作品で好きなアルバムはありますか?

好きな曲があって、『All Night Long』というんだ。YouTubeでも聴ける。彼のプレイや歌い方が好きだ。リアルなんだ。

ー90年代にテレビの深夜番組に出演した際、あなたはヘヴィメタルのギターを弾いているとおっしゃっていました。

(笑)私はブルーズが好きだ。ギターは弾くが、普通とは違うんだ。ひっくり返して後ろ向きに弾くのさ。息子のひとりは、ヘヴィメタルにのめり込んでいるよ。

ー『ワイルド・アット・ハート』や『ロスト・ハイウェイ』にはヘヴィメタルがフィーチャーされています。

そのとおり。ラムシュタインだ。おかげでラムシュタインは成功した。サウンドトラックでもノリの良い曲が聴けるだろう。『ワイルド・アット・ハート』では、パワーマッドのほか、エルヴィス・プレスリー、ジーン・ヴィンセントの『ビー・バップ・ア・ルーラ』など多くの音楽が使われている。もちろん、アンジェロ・バダラメンティもね。

ーフェスティバルのトークショーであなたは、ノー・フォン・ポリシーを取っていると話していました。スマホに支配された現在のカルチャーをどう考えますか? 誰もが何でもかんでも記録し、誰もが映画監督のようになれる時代です。

それは問題ない。記録することは良いことだ。私が記録する理由は、映画のためだ。一方で、スマホを使って動画撮影し、インターネット上にアップするのは良くない。サウンドも画像もクオリティが酷すぎる。窃盗行為だ。だから良いことではない。

ーまた、自動車工場で働く人たちや犯罪を扱ったヴェロシティ・チャンネルのテレビ番組についても発言していました。特にどの番組を見ていますか?

インヴェスティゲーション・ディスカヴァリー(米国のTVネットワーク)は、どの番組も好きだ。人は互いに驚くべきことをする。

ー『ブルーベルベット』と『ツイン・ピークス』の2作品であなたはカイル・マクラクランを捜査官役で起用しています。その理由は何でしょうか?

『ブルーベルベット』のジェフリー・ボーモントは、(ツイン・ピークスの)若き特別捜査官デイル・クーパーだ。しかし私はかねてから、誰もが捜査官だと言っている。我々はものごとに気づく。我々は常に、起きていることの真実を得るための糸口を探し、考え続けている。しかし最近では多くの妨害があって、難しい。自分自身で見つけるチャンスが減っている。私にとってミステリーはいつでも重要だ。人々は知りたがりだから。

ー日常を観察し、何か他のことが起きる可能性について考えろ、ということでしょうか。

溢れ出るアイディアだ。イマジネーションと言ってもいいかもしれない。でもイマジネーションは、アイディアの単なる垂れ流しだ。何かを観察することで、感じたもの、見たものからアイディアが流れ出す。全てアイディア次第ということだ。

Translated by Smokva Tokyo

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