「女性差別は悲しいこと」チャックDとレイジの2人が語る音楽と政治のつながり

マーヴィン・ゲイの問いかけに対する答えを、モッシュピットに届けようとしている

―PEやレイジはどの作品にも、リリース当時の政治や社会問題に対する問題意識が刻み込まれていますよね。当時と今とで、どちらがよりよい世界になっていると思いますか?

チャックD:それらのレコードが完成したあとに生まれた人もいれば、発表されたあとに亡くなった人もいるわけだよね。だから一概には言えないけど、どんな時代でも何か問題があれば、きちんと告発していくのは大事なことだと思う。

―あなた達の音楽は今も昔も、ポリティカルなメッセージと不可分だと思います。一方で日本では、ミュージシャンが政治的発言をすると、「音楽に政治を持ち込むな」と批判が起こることがしばしばあって……。

チャックD:(遮るように)それは誰から? ジャーナリスト?

―それもなくはないですが、彼らのファンやリスナーの間でそういう意見を持つ人も少なくないようです。

チャックD:(不思議そうな表情をして)そうなのか。

ブラッド:まず、どんな音楽であろうと、政治的なニュアンスは込められているはずなんだよ。あからさまにそうは映らない音楽だって、それを聴くことで、政治的な問題意識を麻痺させるかもしれないわけだし。

チャックD:たとえば東京や大阪に住む若い人たちが、アパートの家賃が高くなりすぎて支払えなくなったとしよう。そこにも政治的な仕組みの問題があるはずなんだよ。政治とは、あらゆる人々の生活に影響をもたらすものだ。だから、そういう身近なところにも目を向ければ、自分たちがホームレス問題とも無縁ではないことや、ときには議論が必要な理由もわかるんじゃないかな。

―なるほど。

チャックD:だからこそ俺たちも、プロフェッツ・オブ・レイジとして、アメリカや世界中の国々が抱えている問題と立ち向かい、「ホワッツ・ゴーイン・オン?」というマーヴィン・ゲイの問いかけに対する自分たちの答えを、ステージからモッシュピットに向けて届けようとしているんだ。

プロフェッツ・オブ・レイジPhoto by Eitan Miskevich 

―そういったアティテュードに影響を与えたミュージシャンを挙げるとすれば?

チャックD:ジョン・レノン、ジェームス・ブラウン、カーティス・メイフィールド、スライ・ストーン……そんなの山ほどいるよ。デヴィッド・クロスビーもいるし。

ブラッド:ジョニー・キャッシュもそう。

ティム:ミスター・チャックDもね。

―逆に、自分たちの影響はどんなところに届いていると思います?

チャックD:それより思うのは、音楽業界において、女性の声に耳を傾けようという姿勢が圧倒的に欠けていることだ。女性の意見だって男性と同等に扱われるべきなのに、そうなっていないのが物凄く悲しいよ。ブラッドの奥さんが(女優の)ジュリエット・ルイスなんだけど、彼女はエネルギッシュに活動しながら、音楽を通じて素晴らしいメッセージを発信しているけど、その声がきちんと伝わっているとは正直言い難い。

―ふむ。

チャックD:むしろ、そういった女性差別は昔よりひどくなっているのかもしれないね。40年前にジョニ・ミッチェルが戦っていたときは、たくさんの批判があった一方で、彼女の意見に敬意を示す人も一定数いた。ジョーン・バエズやジュディ・コリンズ、あるいはニーナ・シモンやアレサ・フランクリンも自分たちの声を届けようとしてきた。でも、ここ10年くらいで、女性のミュージシャンは以前より活動しにくくなった気がするよ。だからこそ、俺はジュリエットやパティ・スミスのような人たちを尊敬するし、音楽業界のそういう体質は一刻も早く改善されるべきだと思う。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE