ローリング・ストーンズを支えた名プロデューサーの知られざる15の真実

5. 『メインストリートのならず者』を完成させたミラーの功績は勲章に値する

『メインストリートのならず者』の制作にまつわるエピソードは、どれも伝説めいたものばかりだ。アルバムの大部分は南フランスにあるキース・リチャーズの別荘の地下室でレコーディングされたが、そこには無数のドラッグディーラーと中毒者、そして詐欺師まがいの人物たちが頻繁に出入りしていた。メンバーはセッションを頻繁にすっぽかし、不快なまでの湿度の高さのせいで楽器のチューニングは狂いっぱなしだった。ローリング・ストーンズ・モバイル・スタジオと名付けられた、マンションの外にあるトラック内に設置されたコントロールルームは、ミュージシャンとのコミュニケーションという点で不便さを露呈していた。家主であるキース・リチャーズはヘロインに溺れており、ミラーもまたその誘惑に負けてしまった。キース・リチャーズは『アコーディング・トゥ・ザ・ローリング・ストーンズ』でこう述べている。「ジミー・ミラーの名前は、ロックンロールの天国に黄金の文字で刻まれている。最悪な状況下で仕事をこなし、ロクでなしどもを見事に手なずけてみせた。ジミーは最高さ」

6. ミック・ジャガーはミラーに、ヴォーカルの音量を意図的に抑えさせた

「ヴォーカルの扱いについて、ミックと僕は頻繁に衝突していた」ミラーは『Inside Tracks』でそう述べている。「僕はヴォーカルをフロントに出そうとしていたけど、ミキシングの場ではいつもミックから『ヴォーカルがでかすぎる、下げてくれ』と言われてた。そこである日、僕は彼にこう尋ねた。『ミック、どうして君はいつもヴォーカルのレベルを絞ろうとするんだ?自分の歌に自信がないのか?』彼はそうじゃないと答えた。彼曰く、黒人のブルースシンガーはよく口にマッシュポテトを含んだような歌い方をするから、子どもの頃は歌詞を正確に聞き取ろうと仲間内で競い合ってたらしいんだ。でもラジオだと歌詞が聞き取りづらいから、みんなレコードを買って何度も繰り返し聴いてたっていうんだよ。つまりヴォーカルのレベルを抑えて歌詞を聞き取り辛くすることで、リスナーにレコードを買わせようっていう魂胆だったんだ。ミックはいつも現実的だったけど、あの時は驚かされたよ」

7. ジミー・ミラーはストーンズとPファンクの接点だった

クリス・ブラックウェルがミラーに目をつけたのは、彼がプロデュースしたアメリカのソウル/R&B系アーティストのレコードがきっかけだったが、その中には後にファンク界のドンとなるジョージ・クリントンによるグループ、パーラメンツの曲も含まれていた。彼らの『ロンリー・アイランド』は、ミラーが初めてプロデュースしたシングルだったという。クリントンはOffbeat誌のライター、ジョン・ワートにこう語っている。「ジミー・ミラーは俺たちのレコードで歌ってたし、俺と一緒に曲も書いてた。でも彼は最高にファンキーなそのサウンドを、ロンドンに持ってっちまったんだ」

8. ジミー・ミラーは自身名義の作品を残している

実はジミー・ミラーは、自身がリードヴォーカルを務めるレコードを発表している。スティーヴ・ウィンウッドやミック・ジャガー・というよりも、ディオンやドリフターズに近い歌声の持ち主だった彼は、小さなローカルレーベルからシングルを数曲発表している。1965年発表の『ブレイク・マイ・ハート・ブレイク』は、彼が優れたシンガーでもあったことを証明している。

9. ミラーの父親もショービズの世界の住人だった

ジミー・ミラーの父親であり、ロシア系ユダヤ人のビル・ミラーは20世紀初頭、家族とともにアメリカに移り住んだ。彼がニュージャージーに構えていたナイトクラブ、Bill  Miller’s Rivieriaは後にラット・パックを結成するフランク・シナトラやディーン・マーティン、サミー・デイヴィス・ジュニアを含め、数多くのアーティストを招聘している。パリセード公園道路の建設に伴い、同クラブは1953年に閉鎖された。その後移り住んだラスベガスで、ミラーはザ・サハラのエンターテインメント・ディレクターに就任した。Las Vegas Review Journalはミラーを、「ベガスのラウンジショーの生みの親」と評している。彼の娘であり、ジミーの腹違いの妹にあたるジュディスはこう語っている。「ショービズの発展に情熱を燃やしていた父は、ホテルから出入り禁止を言い渡されていたサミー・デイヴィス・ジュニアを強引にブッキングしてみせた」

またビル・ミラーは、1969年にインターナショナルホテルで行われた、エルヴィス・プレスリーの復帰コンサートの仕掛け人でもあった。

Translated by Masaaki Yoshida

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