英ロイヤル・ウェディング音源収録秘話:プロデューサーが語る感動挙式舞台裏

ー今回のアルバム制作に関して、ロイヤル・ファミリーから何かリクエストはありましたか?

私が知る限りでは、洗練されたものにしたいとおっしゃっていたわ。音楽も、スピーチも、挨拶もすべて。ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式のときのようにね。しかも、式が終わったら可能な限りすぐにiTunesをはじめとするストリーミングサービスにアップロードしたいともおっしゃっていた。だからその日のうちに完成させなくてはならなかった。もちろん、その通りやり遂げたけれどね。

ーウィリアム王子とキャサリン妃との結婚式も手掛けられたんですね?

そうよ。ウェストミンスター寺院の中で。7年前にね。あれからテクノロジーも進化したので、今回はさらに手際よく、効率よく進められたと思う。でも、広い意味で言えば状況はほぼ同じ。情報を集められるだけ集めて、可能な限り事前の準備をする。私たちがメタデータですぐ作業できるよう、デッカの人々は何週間も事前に準備してくれた。そのおかげで、私たちは最終的な収録音源を落とし込むだけで済んだ。彼らはひとつのミスも侵さなかったわ。アポストロフ1文字が抜けただけでも、全部が台無しになっちゃうんだから! まさにチームワークだった。みんながチームの一員として誇りを持っていた。素晴らしい雰囲気だったわ。国全体を包んでいたポジティブなオーラが、小さなかけらとなって、関係者1人1人に浸透していた。私たちの仕事は全体のごく一部にしか過ぎないけれど、それでもすごく誇りに思っているわ。

ーウィリアム王子・キャサリン妃の時と比べて、ハリー王子・メーガンさんの結婚式はどこが違っていましたか?

(ウィリアム王子とキャサリン妃の)ウェディングも本当に素晴らしかったわ。今回とは違う意味でね。なんというか、ちょっと威厳があったというか。彼は王位継承者だから、国家行事だったしね。おそらく、2人は国家行事にふさわしい式にしたかったのだと思う。関係者全員に気を配っていたわ。ウィンザー城はもっとこじんまりしていたし、ある意味プレッシャーも少なかったでしょ。ウィリアム王子は王位継承順位が2位、ハリー王子は5位。だから今回のウェディングはより柔軟で、自分たちのやりたい形で行うことができた。EU離脱のために人々がイギリスの行く末を案じている今、(ロイヤル・ウェディングは)世界にとって素晴らしい出来事よね。どの結婚式がより素晴らしいか、比べることなんてできないわ。どちらの王子も、自分たちが望む結婚式を挙げた。それが何よりだと思うわ。

ー収録で特に気にかけていたのはどんな点ですか?

もっとも気にかけていたのは、もらった音源データにノイズがないかどうか。幸いひとつもなかったけれどね。ヒースロー空港の航空機の音を風が運んできませんように、ってことばかり祈っていたわ。ヒースロー空港を離発着する飛行機の中には、結婚式の時間帯にちょうどウィンザー城の上を通過する便もあったのよ。事前に教会で収録したら、案の定飛行機が頭上を飛んで行った。実際には、この問題で頭を悩ませることもなかったので、超ラッキーだったわ。あとは雨ね。雨が降るととにかく厄介なの。屋根を打つ雨音はものすごく目立つのよ。ほかにも、教会ならではのノイズとか・・・とにかく、どんな雑音が入るかなんてまったく予想できない。名前は出さないけれど、結婚式の関係者の中で1人――新郎新婦じゃないわよ――マイクのコードを踏みまくる人がいて、式の後でノイズ・リダクションをちょっとかけなきゃいけなかった。でも今ではソフトがあればノイズ除去も簡単。7年前には考えられなかったわ。とにかくすべてうまくいった。予想できないことも想定して準備を進めた。まさにこれがプロデューサーの仕事よ。

ー最終的にOKを出したのは誰ですか? もしや女王陛下?

事前に大まかな決め事をしておいたの。ケンジントン宮殿に私たちと直接やりとりする担当者がいて、何か問題があったらその人が対応するこ
とになっていた。私のほうでも、あちらで問題が生じたらいつでも対応できるように連絡が取れる状態にしておいた。でも幸いなことに、万事つつがなく進行して、連絡を取り合う必要はなかったわ。ジャケットの写真に関しては承認を得る必要があった。どの写真を使うかについては、(デッカの)ギャビン・ベイリスとケンジントン宮殿の担当者とが直接やり取りをしていた。私たちは音源担当。最高のオーディオ品質を実現するのが私たちの仕事。全員がお互いの役割を心得ていたから、何も問題は起きなかったわ。

ー19歳のチェロの神童、シャク・カネー=メイソンはロイヤル・ウェディングで脚光を浴びましたね。今回のアルバムをきっかけに、彼が世界に羽ばたくことになると思いますか?

シャクのようなクールな若者には、もう長いことお目にかかっていないわね。彼はずば抜けている。情熱をもって演奏に向き合っている。彼が目を閉じてチェロを弾き始めると、150%のパフォーマンスで人々を違う世界へいざなってくれるの。式が始まる前、私たちは待ち時間に少しおしゃべりしたの。若いアーティストには、何百万人のオーディエンスの前で演奏するのは、人生を変える出来事だと思うんだけど、彼は本当にキュートで、物静かで、将来のヴィジョンをしっかり持っている。しかも相手が誰であろうと、礼儀正しく話をする。こんなに物腰が低くて、そのくせ自信に満ちた若者を見たことがないわ。彼が今回のウェディングに抜擢されて、本当にうれしい。新郎新婦が彼を選んだのはまさに正解ね。彼の未来が待ち遠しいわ。

なお本音源『世紀のロイヤル・ウェディング2018』は、式直後の5月20日から全世界でデジタル配信を開始しており、国内盤のCDは6月13日(水)に発売が開始される。


Translated by Akiko Kato

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