U2の舞台監督が語る、壮大なワールドツアーの全貌とライブ演出の未来

長年U2の舞台監督を務めるウィリー・ウィリアムスが新ツアーについて語った(Photo by Olaf Heine)


ーオーグメンテッド・リアリティ部分ではアプリが必要ですよね?

もちろん! これはテクノロジーへの好奇心から生まれたアイデアさ。面白いんだよ。360°ツアーのときにも、今で言うオーグメンテッド・リアリティを調べていて、これを使いたいと思った。今ではオーグメンテッド・リアリティとしてみんな知っているけど、当時はまだね。今回は、ボノがマーカーのついた特製ジャケットを着る。アプリを使うと、非公開のアニメーションを見ることができるんだ。僕たちがイメージしたのがピーター・ガブリエルの「スレッジハンマー」のMVだ。あの当時(360°ツアー)、8年前にスタジアムという規模でそういうことを実現するには、まだテクノロジーが追い付いていなかったんだ。でも、ライブのイメージをその場で加工して遊ぶアイデアはあの頃からあったよ。

これを調査し始めたのはたぶん2年くらい前だ。もちろん、携帯電話のオーグメンテッド・リアリティは今では当たり前だけど、その頃の僕はそれを大規模に行うことに興味をそそられたのさ。ロック・ライブの醍醐味は観客が同じ体験を共有することだ。普段、みんな携帯電話の画面に目が釘付けだから、逆に何千人、何万人が同時に携帯電話の画面を見るという体験を共有してほしいと思ったんだ。かなり面白いと思ったね。コンサートのコンセプトとは関係ないけど、ストーリーを伝える一つのツールではある。コンサートの全体像が見えると、自分がそこで目にするストーリーの意味が理解できるはずだよ。

このアプリには心配事が2つあった。一つは、いきなり舞台のスクリーンに「OK、みんな、ここで電話を出し、赤いボタンを押してくれ」みたいな指示を表示する状況だけは避けたかった。観客に指示することはステージの雰囲気を壊す最たるものだから。それに、もちろん、皮肉なことだけど、21世紀のエンタテインメントが崩壊する一番の原因は、誰もステージを見ないことだと僕は思っているよ。みんなの目は常に電話に向けられているから。だから、ライブの一部に電話を通さなければ見られない部分があるということは、そういう状況を皮肉ってもいる。ある意味、僕たちがZoo TVツアーで初めて巨大スクリーンを導入したときの雰囲気を思い出すよ。あのツアーまで、U2は100%ライブ演奏で観客を楽しませるバンドで、カメラにそれを邪魔されたくないと思っていたから。でも、Zoo TVのとき、バンドは全プロセスの真ん中に置かれたし、オープニングから15分間はバンドの演奏を見られないほど多数の仕掛けを展開した。今回もそれと似たような感じだね。だって、僕たちの方から「電話の画面を見てくれれば、ストーリーに沿った面白いものを見せてあげるよ。君が作る誰も見ない動画よりもマシな動画だよ」って言っているわけだから。もう一つは、ライブが始まる直前はアプリの使い方を覚える時間になること。つまり1曲目の最中にアプリの使い方を覚えるんじゃないってことだ。ライブ開始前にアプリを覚えたら、あとはストーリーが展開するのを見るだけさ。これは全体の中の小さなディテールであって、ストーリーの進行に影響を与えるような重要な要素ではないってことだよ。

ー私がコンサート会場で一番嫌なのが、周囲の観客が最初から最後まで電話を見ていることです。今回のツアーでは、1曲目で電話を見たら、あとはポケットに電話をしまってくれると嬉しいですね。

それに対して2つほど対策を考えた。一つはアプリが一定時間作動したあとに電話をクラッシュさせる仕様にすること。これが一つで、もう一つはアプリがバッテリーを劇的に消費させて電話を使えなくすること。でも、裁判やら、悪い評判やらを考えたら……(笑)。

ーInnocenceツアーのセットリストと今回のセットリストの違いはどれくらいですか?

そうだな、全体の3/4は新しいと言える。今回が三部作の最終章だと考えると、これは4年間で3本目の新しいツアーとなる。普通、僕たちは1つのツアーサイクルに4年間費やすから、4年間に3本のツアーは驚異的なんだよ。前のツアーから時間が空いていないから、倉庫の箱を全部ひっくり返してチェックする必要はないと思った。だってスタジアム・ツアーをやる場合、4年ぶりにアメリカを訪れるとなったら、観客の期待はかなり高くなる。その点、前年にヨシュア・トゥリー記念ツアーを行うことができてありがたかった。それも集金ツアーとか、グレーティストヒット・ツアーとか揶揄されずにね。つまり、今回のツアーは後ろ向きじゃなくて、前向きなツアーだということが本当に重要なんだ。U2にはヒット曲はたくさんあるけど、それに頼らなくても新たなツアーを実現できるわけだよ。

ー前回のツアーとのバランスを取るために、バンドが『ヨシュア・トゥリー』収録曲を一切演奏しないと考えたことはありましたか?

最初に僕が思ったことは「前2ツアーで演奏した曲は演奏すべきではない」だった。これは自分自身を挑発しただけだったけど(笑)。前回とは全く違う曲で構成するのは勇気の要ることだった。今回のツアーでも前2回のツアーで演奏した曲を演奏するけど、同じ曲が演奏される理由は、今回のストーリーにその曲が必要不可欠だからなんだ。前ツアーとは異なる感覚だ。おかげでかなりの自由を感じているよ。それに、新曲が多いライブの途中で昔の曲が登場すると観客の共感を倍にすることができるんだ。だって、流れの中で自然に昔の曲が出てくるからね。どの曲も登場するタイミングも含めて、そこでその曲が演奏されるべき理由が確実にあるんだ。



ーこれまでライブで演奏したことのない曲をやってみたいと、U2が以前言っていたのですが、今回はどうですか?

ああ。でも、あまり詳細は語らないようにしたい。まだ開演まで2〜3日あるからね。いつものことだけど、先週が最も葛藤の多い週だった。ツアー初日の前の週が一番大変なんだ。うん、バンドはこれまでライブで演奏したことのない曲を幾つかリハーサルしていた。みんな、かなり興奮すると思うよ。

ーセットリストの柔軟性はどれくらいですか?

Innocenceツアー同様、今回のツアーもかなり複雑だから、最初はセットリストが固定されていた。ただ、固定されたセットリストがあって、それ以外にバンドが自由に演奏できる空間のあるステージというのが、僕が一番好きなスタイルなんだ。そういう柔軟な空間で演奏された曲が、万が一上手く行かないときには、2曲演奏する間にそれがはっきりするから、すぐに元のセットリスト、元のグルーヴに戻れる。そんな感じの流れだよ。最初はライブの構成どおりにリハーサルするけど、徐々に融通の効く部分をバンド自身が見つけていくのさ。

Translated by Miki Nakayama

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