U2の舞台監督が語る、壮大なワールドツアーの全貌とライブ演出の未来

ーもともとはどんなアイデアだったのですか?

最初は三部作にするのがいいと提案した。つまり、3晩に渡って3つのコンサートを行うこと。それがあっという間に2つのコンサートになったけど、確かにこっちの方が理に適うと思う。だって外に出て行く旅のストーリーと故郷に戻る旅のストーリーだから。最初のアイデアは、各会場で2つのストーリーを2晩続けて上演する、つまり、初日がInnocenceで翌日がExperienceという設定だった。もちろん、そうするとバンドはかなりの曲数の未発表曲を演奏しないといけないことにすぐに気付いた。あの時点で『ソングス・オブ・エクスペリエンス』の収録曲はかなり出来上がっていたけど。

最終的に、Innocenceを1年やって、翌年にExperienceをやるべきだと考えるようになった。その後、あれやこれやが起こり、邪魔が入り、1年が2年になり、そうこうしているうちに『ヨシュア・トゥリー』の件が立ち上がった。最初は2公演程度のお祝いコンサートの予定が、結局は1年間のスタジアム・ツアーになってしまったわけだ。人生はそういうものだよ。でも、ヨシュア・トゥリーのツアーもこのストーリーの一部とカウントすると、これが当初のアイデア通りの三部作になると気付いたとき、思わず笑みがこぼれたね。遠い昔に却下されたアイデアが実は生きていたって思ってね。

こういう強力なコンセプトで構成されていて、強力なストーリーのある舞台を扱うのは最高だ。だって、ロックのライブを観ていてよく感じるのが、たとえ素晴らしいデザインの舞台を作り上げたとしても、必ず「なぜあれがあそこにあったんだ?」という答えの出ない疑問なんだ。U2の場合はあまりないけどね。明らかに、大抵のロックやポップスのライブの図像とストーリーは完全に偶然の産物だよ。ところがU2のこのツアーでのそれはストーリーを伝えることを考えたものになっている。ありきたりだけど、それが本当のことなのさ。今回のツアーで僕たちは語るべきストーリーを完成させることになる。

ーExperienceツアーのコンセプト自体はここ2〜3年の間に変わりましたか?

もし2016年にExperienceツアーを行っていたら、舞台装置はそのままにストーリーの後半を演奏したと思う。しかし、時間の経過とともにテクノロジーが驚異的な速さで進化したおかげで、できることが多くなっている。それに(3年を経て)戻ってきたとき、前と全く同じになり得るという感じはしなかった。一瞬見たら前と同じに見えるが、全部が前よりもクリアになっているよ。

ビデオ・スクリーンほどつまらない話も滅多にないとは思うけど、実は今回のスクリーンの解像度は3年前のスクリーンの10倍だ。透明度も4割増。そんなことが可能な理由は僕にもわからないけど、それくらいのレートまで技術が発展しているってことだよ。ヨシュア・トゥリー記念ツアーで使ったスクリーンが驚異的に高解像度だったから、今回も映像がクリスピーなスクリーンで嬉しいよ。そうじゃなきゃ、クランチーな感じがしたと思うんだ。テクノロジーの進化もあって、こういうことが可能になったし、こういったツールは物語を伝えるために必要だった。

ーアリーナに足を踏み入れてステージを見たとき、2015年のステージと非常に似ていると思いました。

うん、同じに見えると思う。僕たちが「Innocenceスイート」と呼んでいる光景をキープしているんだよ。だってそれがストーリーの核心で、「シダーウッド・ロード」の部分だから。その部分をキープした理由は、それが物語の中で明らかに重要な部分だからだよ。でも、それ以外の約75%は真新しいね。



Translated by Miki Nakayama

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