U2の舞台監督が語る、壮大なワールドツアーの全貌とライブ演出の未来

長年U2の舞台監督を務めるウィリー・ウィリアムスが新ツアーについて語った(Photo by Olaf Heine)

長年U2の舞台監督を務めるウィリー・ウィリアムスは、2018年のExperience + Innocence ツアーのためにバンドが考えていた大規模計画を明かした。21世紀のエンタテインメントが崩壊する一番の原因は、誰もステージを見ないことだと僕は思っている」

米現地時間5月2日、U2は米オクラホマ州タルサのBOKセンターでExperience + Innocence ワールド・ツアーを開始した。何ヶ月も行ったリハーサルの成果が披露されるのだが、このツアー自体は本来2015年のInnocence + Experienceツアーの直後に行う計画だった。しかし、この計画は、彼らが2017年にアルバム『ヨシュア・トゥリー』発売30年を記念するスタジアム・ツアーを行いながら世界各地で祝うということを決める前の予定だったのである。さらに、未だに内容が明らかになっていないボノの「倫理観を問われた経験」がU2の最新アルバム『ソングス・オブ・エクスペリエンス』(2017年)の大々的な変更を引き起こす前の予定でもあった。

過去3年間のU2ワールドで起きた出来事が何であれ、このExperience + Innocenceツアーは、まずInnocence + Experience ツアーを見た人にとっては非常に馴染み深いと感じるものだろう。基礎となるステージ・セットは前回と同じだ。しかし、ステージが進むにつれて、新たなお楽しみが次から次へと出現する。その口火となるのがコンサートのオープニング曲で実施されるオーグメンテッド・リアリティ(AR)セクションで、携帯電話にU2 Experienceアプリをインストールすれば誰でも見られるようになっている。

ツアー初日を控えた多忙な時期に、長年U2の舞台監督を務めるウィリー・ウィリアムスが電話で取材に応えてくれた。

ー最初にInnocence + ExperienceとExperience + Innocence両ツアーのアイデアが浮かんだとき、この2つが別々のツアーになり、さらに年単位の期間が空くことを想定していましたか?

(両ツアーの間が空くとは想定して)いなかった。そういう計画ではなかったから。でも幾つかの出来事が起きてしまった。このツアーの計画は、クリエイティブ・チームとバンドがフランス南部にあるバンドの所有地で、ちょっとした打ち合わせをしていたときに生まれたんだ。その週末、僕たちはこのアイデアに没頭したね。実は5年前のことで、舞台美術のマーク・フィッシャー(2013年に他界)も参加していたから、それだけでかなり前のことだとわかる。僕たちは本当に無我夢中でね。バンドが新しい音楽を聞かせるものだから、どんどんInnocence + Experienceのアイデアと2つのツアーというのが形になってきた。バンドは、最初のツアーに対して明確なアイデアがあったんだ。それは、ダブリンという暴力に溢れた環境で育つティーンエイジャーが寝室の窓から外の世界を見て、その世界にどう馴染めばいいのかを考えるというストーリー。これはかなりクリアなコンセプトに思えたよ。

そして、2つ目のツアーは、世界に出たかつてのティーンエイジャーが故郷に戻るストーリーになると、みんな漠然と感じていた。様々なアイデアが出て、その中に1組のフレーズがあった。一つは(彼らの1981年の曲)「リジョイス」の一節。「世界は変えられないが、自分の中の世界は変えられる」だ。これは彼らの10代の頃の気持ちで、今でも大抵の若者が考えることだ。そして、U2のような人たちから影響を受けた大人は、これが「世界は変えられる」になる。つまり、小さなことかもしれないが、世界を変えることはできるということ。でも、人間の条件や境遇など考えると、自分の中の世界を変えることは不可能だと気付くんだよ。



この歌詞の2文が最初のストーリーのコアとなる部分だった。最初のストーリーは外界の暴力と対峙すること。そのあと、大人になると、今度は暴力だけでなく自分の内側で沸き起こる問題や「自分は何者か」という疑問とも向き合うことになる。そういったアイデアがすべてそのときに出て、その週末は、同じ通りで育った思い出など、様々なストーリーをみんなで語り合う素晴らしい時間となったんだ。U2の幼なじみのシャロン・ブランクソンもその場にいた。彼女はバンドのスタイリストで、我々のクリエイティブ・チームに所属している。それにギャヴィン・フライデーもいて、彼もU2の幼なじみだ。僕も似たような環境の町の出身さ。1970年代の英ヨークシャーで育ったから。僕たちは同い年だし、社会的な地位も似ている。共感する事柄が本当に多いんだよ。

このとき、何がすごかったかと言うと、思い付いたストーリー、アイデア、イメージなどをすべてクラップブックにまとめたことだ。クリエイティブ・チームの僕、エス・デヴリン、リック・リプソンでまとめた。実は、みんなCADで絵を描くことに疲れてしまって、それ以来、スクラップブックにまとめるようになっている。フランス南部で作られたあのスクラップブックは、あれ以来5年以上ずっとインスピレーションの源となっているよ。今回のツアーでも、あのときに話し合ったことをもう一度思い出した。今回のコンセプトはU2だけでなく、僕が手がけてきたどんな舞台よりもわかりやすいストーリーだね。本当、最高だよ。

Translated by Miki Nakayama

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