ローリングストーン誌が選ぶ「2017年ホラームービー・ベスト10」

4位:『キリング・グラウンド』

森で暮らす地元の男2人。ハンティングを好み、男性ホルモンむきだしで、欲しいものは力づくで手に入れないと気が済まない。かたや2組のキャンプ客。どうやら、小川のほとりにある同じキャンプ場にいるようだ。そしてタスマニア出身のダミアン・パワ―監督の存在。三流映画館の黄金期から脈々と受け継いできた、いぶし銀のバイオレンスホラーにさらに磨きをかけ、限界ギリギリ、レッドゾーンまで踏み込んでいく。時間軸が交錯するストーリーは単なる演出上のギミックかと思いきや、実は観客を悪夢の世界へ導くために意図されたものであることが次第に明らかになり、最後にはがっちり捕らえられてしまう。ウェス・クレイヴン監督の『ラスト・ハウス・オン・ザ・レフトー鮮血の美学』のような映画職人がいなくなった、とお嘆きの方には朗報だ。

日本公開:終了 ※DVD販売、デジタル配信済み

3位『アニマルズ 愛のケダモノ』

「ムーアハウス殺人事件」をご存じだろうか? 1980年代中盤、オーストラリアのパースに住む夫婦が4人の女性を誘拐、強姦、殺害した事件だ。事実に基づいたかのようなベン・ヤング監督のこの作品には、実際の事件と重なる点もいつか見られるだろう。この手の事件があるとは知っていたが、自分が被害者となって渦中のド真ん中に放り出されたら――これこそが、残忍な連続殺人鬼ムービーを見た時の感想だ。2017年初頭に映画祭でこの作品が上映されたとき、「会場にPTSDのカウンセラーを常駐させるべきね」と冗談まじりな会話も聞かれたが、あれから数か月たった今、ムーディー・ブルースの「サテンの夜」を耳にするたび、体が勝手に震えてしまう。アシュレイ・カミングス演じるティーンエイジャーが夫婦の罠にはまったとき、バックで流れていたのがこの曲だった。このセンスの良さから、カメラの向こう側にいる人物は研ぎ澄まされた視点の持ち主だということが分かる。そいして情け容赦ない残虐シーンから判断するに、きっと彼の血管には氷が流れているに違いない。

日本公開:終了 ※DVD販売、デジタル配信済み

2位:『ゲット・アウト』

2017年の見逃せないホラームービーといえば本作だ。脚本家兼監督のジョーダン・ピールによる愛すべき70年代社会派スリラーへの完璧なオマージュ、そして神経を逆なでする国内での人種問題の現状。アフリカ系アメリカ人のカメラマン(ダニエル・カルーヤの泣き顔は絶品)が白人の恋人の両親へ会いに行くーそして、「何かがおかしい」という奇妙な感覚にとらわれるーという物語は、下手な監督なら、社会的メッセージの匂いがプンプンする怖い映画で終わっていただろう。だがピール監督は、唯一無二の作品を作り上げた。正統派の恐怖映画。社会風刺に真の邪悪さを織り込んで、かつ良識的な人々をチクリと刺す小気味よさを武器に、「手を挙げろ、打つな!」が繰り返される時代の漠然とした恐怖感に形を与えた。人種差別主義的な大統領が就任した直後に公開され、白人至上主義者が南部の州をデモ行進した時期にも劇場公開されていた大ヒット・ホラー映画は、たちまち我々の現代社会の象徴となった。そう、私たちは今まさに映画の中の世界を生きている。

日本公開:終了 ※DVD販売、デジタル配信済み

1位『Raw 少女のめざめ』

まるで肝試しでもするように、多くの人々がフランスのジュリア・デュクルノー監督の鮮烈的なデビュー作に挑戦した(映画祭で上映された際は、卒倒者続出「Mon Dieu」)。スタートから2時間弱、観客はみな、懐かしの見世物小屋で最高の出し物を見たかのように映画館を後にした。大学1年生(ギャランス・マリリエ)が、他人とは少々異なる味覚の嗜好に徐々に目覚めてゆく物語。人肉少女が大人へと成長してゆく過程を追いかけてゆくうちに、不快感こそ拭えないものの、ストーリーの焦点ががらりと変わる。次世代ホラームービーという意味で型破なこの作品は、メインストリームを牽引する新たな才能の訪れと言えるだろう(ヒロインが自らの腕にかぶりつく姿をモロ描いたシーンは、グロテスクでありながらも美しく、思わず見入ってしまう)。一方で、女性の身体的な悩みをホラーというジャンルで描いたという意味では、『Raw』はまさにアートホラーの逸品。血糊が飛び散るスプラッター映画に、抑制や女の性に対する罪深い欲望が隠し味。みなさまどうぞ、召し上がれ。

日本公開:終了 ※2018年7月7日DVD販売予定

Translated by Akiko Kato

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