カニエ・ウェストのトランプ愛、二人の共通点を探る

トランプを賞賛するツイートしたカニエ・ウェスト (Photo by Drew Angerer/Getty Images)

カニエ・ウェストとドナルド・トランプというお騒がせな二人。先日、カニエがトランプを賞賛するツイートをし、全世界で物議を醸している。ナルシスト、皮肉屋という似た者同士のラッパーと政治家の共通点を、米ローリングストーン誌のライターが読み解く。

かつて1968年、ボブ・ディランは米ニューヨーク州ウッドストックに住んでいた。最近ウッドストックに引っ越してきた彼は、世間の詮索から逃れ、新しい家族と過ごし、余裕ができたらザ・バンドと一緒に戯言満載の世紀の音楽をレコーディングするつもりだという。ディランを訪ねた友人たちは、田舎暮らしを楽しんでいる彼に驚いた。そして、「ベトナムのことよりも石工業について話す方が圧倒的に多くなっている。その上、分離主義のアラバマ州知事ジョージ・ウォレスを支持するとまで言っている」と、著者バーニー・ホスキンスがウッドストック・シーンの思い出を記した書籍『Small Town Talk: Bob Dylan, The Band, Van Morrison, Janis Joplin, Jimi Hendrix and Friends in the Wild years of Woodstock』(2016年)に書いている。

楽曲「The Lonesome Death of Hattie Carroll」を作った男が人種差別者に同調したという過去の事実に、今でもショックを受ける人がいるかもしれない。しかし、これもディランがディランたる所以であり、仲間を扇動し、1960年代の左翼のスポークスマンだった自分の役割への軽蔑を表していたのである。1968年のディランは、自分が吐き出す自意識過剰な憎まれ口や悪態は、“ディナーテーブルの枠を超えないお喋り”だと知っていた。それから半世紀が過ぎ、カニエ・ウェストのディナーテーブルの枠は彼のTwitterフォロワーの数と同じくらい大きい。誠意と皮肉、無精なコントラリアニズム(※人と反対の行動をとる主義)と正真正銘の錯乱した信心の間に横たわる壁は、子供が「パパ嫌い」と言う程度の高さなのだ。

確かに、かつて右寄りのロッカーは存在していた。しかし、カニエが引き起こした不快さはかつてないものだった。軽率で復讐心に燃えた、ナルシシズムが伴うこの不快さに比べたら、モリッシーですらまともな善人に見えるであろう。キャリアの絶頂期に政治的な理由でこれほど多くの人々を落胆させたアーティストはカニエ以外に思い浮かばない。ヒップホップ・ファン世代にとって、これはかなり影響力が大きく、ほとんどエディプス的裏切り行為と言える。つまり、彼らにとってはレコードを燃やしたい衝動に駆られる行為であり、アンチ・カニエの罵詈雑言をTwitterに投稿しないのは、裏切られたことに気付かないくらい精神が病んでいる人ぐらいだろう。

しかし、ポップス界でも無類のナルシストであるカニエが、トランプという“こども皇帝”に賛同する事実に大きなショックを受けるべきではないのかもしれない。リアリティTVスターとして失敗したトランプが“弱い者いじめ大好きトランプ”に変身する以前から、カニエは漠然とトランプ支持者であった。傲慢さと野心の渦の中で尊大な優越感を糧として生き、自身の曲には「パワー」や「ストロンガー」という“是が非でも手に入れる”ファシスト系のタイトルをつけていた男だ。授賞式で女性の手からマイクを奪い取る男だ。彼にしてみれば、それこそが名高い男の振る舞いであり、強烈な暴言で攻撃し、カオスとスキャンダルを成功のための武器とするのが、彼が求める“真の男”なのだ。

成功への階段を登っている間、トランプとカニエの両者は、有名人や有名な団体をブルドーザーのように攻撃することで「満足」してきたのだろう。カニエが全国放送のチャリティーイベントに乱入して、「ジョージ・ブッシュは、黒人のことなんて気にしちゃいない」と言ったときのマイク・マイヤーズの唖然とした表情。それは、共和党大統領候補のディベートで、トランプが台本に書いていない強烈な非難を公然に爆発させた際に、ジェブ・ブッシュやマルコ・ルビオが見せた“固まった状態”と何ら変わりがない。それに、彼らのクリエイティブなプロセスも似ている。カニエがアルバム『The Life of Pablo』をリリースしたあとで、これがそのうち気分が向いたら完成させる未完成版だと公言したことは、トランプ政権下のホワイト・ハウスのやり方とまったく同じである。右寄りのFOXニュースの番組『Fox and Friends』への出演といい、政策決定といい、スペルミスの多いプレス用資料といい、あとで元の線路に戻すかもしれない脱線した列車そのものだ。きっと私たちはパブロ的大統領の時代に生きているのだろう。

Translated by Miki Nakayama

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