3. セットデザインと衣装デザイン:非の打ち所なし無機質な金属のピラミッドが二つに割れ、その中からゴールドの衣装をまとった現代的なブラスバンドが登場してステージが幕を開けた。派手なスクール・ファッションで着飾ったビヨンセの胸元にはオリジナルの校章。この校章には黒豹、ネフェルティティの胸像、黒人パワーの拳、キラキラ輝く蜂が並んでいた。ピンクのスモークの中、ビヨンセは観客の頭上6〜7メートルのクレーンに乗って登場し、2013年のヒット曲「ドランク・イン・ラヴ」を歌った。バラ色の煙が消えると同時に花火の合図でパワー全開の「ドント・ハート・ユアセルフ」が始まった。エナメル革の衣装を着たファムフェタル姿で登場したビヨンセが、悲しげな声で「私を誰だと思っているの?」と叫ぶと同時に空に向かって火柱が上がった。観客を汗まみれにしたのは火ではないことだけは確かだ。
Photo by Raven Varona4. キラー・クイーンvs バガブーズバガブーズとはビヨンセの女子クラブであるベータ・デルタ・カッパの卑しい男子版だ。PG-13指定の屈辱プレイと表現するのが一番のこのバガブーズが、演奏の箸休め的な面白インタールードとして登場した。バガブーズが女子クラブの女主人ビヨンセに「俺を笑わせてみろ」と命令し、不満の声を上げると、ビヨンセと女子クラブの仲間から冷たくあしらわれたのである。
「みんな」と、ビヨンセが観客に向かって叫んだ。「みんな、利口でしょ? 強いでしょ? もうたくさんでしょ?」と。
観客が歓声をあげる間、ビヨンセは少し待って、こう叫んだ。
「Suck on my balls!」(※いい加減にしろ!の意味)
それも、単語一つ一つを区切りながら力強く叫んだのである。
5. DJキャレドが新コーチェラを「ビーチェラ」と命名みんな、今年以降のコーチェラのヘッドライナーたちに一瞬同情してしまったはずだ。ビヨンセのあとに続くのは大変なことで、今年のコーチェラの主役は間違いなく彼女だ。DJキャレドは第一週には参加していなかったのだが、彼の声がメインステージに鳴り響いた。「コーチェラの名前が変わったぞ。ビーチェラのコーチェラになったぞ。お前ら、間違うなよ!」と。DJキャレド行く所、必ずダンスホール・エアホーンの音が鳴り響き、物事すべてがコメディになるのだ。
6. ビヨンセ:楽曲の系譜ビヨンセのコーチェラ・セットは、現在も人気の衰えないシンガーとしての彼女の過去20年間を振り返る選曲だったが、単なる“ビヨンセ音楽史短期集中講座”ではなく、ブラック・ミュージックの歴史をも振り返る内容だった。2016年の「フリーダム」のあと、彼女が続けたのは、ジェームス・ウェルダン・ジョンソンとジョン・ロザモンド・ジョンソンの黒人国歌「Lift Every Voice and Sing」。最近ロックの殿堂入りを果たしたニーナ・シモンの「Lilac Wine」。そしてフェラ・クティの「Zombie」を強烈なインタールードとして披露した。加えて、ニューオリンズの粋なブラス・サウンドで奏でられた「シングル・レディース」は、観客を陽気にし、楽しそうに踊らせた。