WWEの舞台裏で活躍する全身タトゥーのコメンテーター、波乱万丈の歩み

この頃、プロレス界への夢に向けて動いていたのは弟の方だった。子どもの頃と同じようにグレイブスは弟のことを「リトル・サム」と呼んでいる。グレイブスは弟からWWEと契約したと聞かされて、びっくりしてその瞬間、自分のチャンスの扉が閉じたようにも感じたと語っている。弟のことを素直に祝福できなかった。長年のリング生活でも自分は世界最大の団体の食指に引っかからない。自分のどこが間違っているのか? たぶん、この話も何か仕組まれているに違いない、と思ってしまったのだ。そして弟は契約後 すぐ壁にぶち当たり解雇されてしまった。

「自分なりの準備ができていなかったのに、(WWEと)契約したんだ」と弟のサム(リングネームはサム・アドニス)は語る。「もし兄さんが僕を引っ張ってくれたなら、また違う成り行きになっていたと思う」とアドニスは言う。その後、アドニスはしっかり立ち直っている。現在はメキシコのルチャ・リブレでギミックを演じているアドニスなのだが、そこでは熱心なトランプ大統領支持者を演じてのけ、メキシコ中の憎まれ役として活躍している。

2011年、27歳でクレイブスはプロレスの道を断念することに決めた。彼は警察の通信指令課で働き定期収入を確保していた。

しかし、妻エイミーにとって夢を失った夫は受け入れがたかった。「彼に電話させてWWEのエキストラとして働くよう仕向けたの」とエイミーは語る。ちょうど運良く、クリーブランドでのRAWのエキストラに空きがあった。夫婦はとても貧乏だったが、彼女は夫の身なりをできる限り整えるべく、紫のセーター、カラーシャツ、ネイビーのスラックスを購入。彼女自らが彼の調髪をして、耳掃除までしてあげた。グレイブスも人生で一番それがまともな出で立ちだったと振り返る。そしてバックステージでは、彼のことを覚えていたエージェントたちが話しかけてきたが、グレイブスは自分がもう引退した身でここには雇われてきていると言い張った。一週間後、一家が食卓を囲んでいると電話が鳴った。WWEからだった。その電話を切った後でグレイブスがコトを把握するのには30秒はかかった。WWE側がディベロップメント契約をオファーしてきたのだ。

WWEではバロン・コービンと親しくなった。グレイブス同様、全身タトゥーだらけのNFL選手出身者だ。当初は距離を置いていた2人だが、グレイブスの方からコービンに打ち解けた。共通していたのは音楽への愛だった。コービンはメタル、グレイブスはパンク。コービンはのちにグレイブスに自分の結婚式での新郎付添い人を頼むほどで、リングでのグレイブスのキャラクターの際立ちぶりにコービンはとても心動かされていた。



「彼はリングの世界で最高にクールな男として振る舞えるだけでなく、きっちり切り替えて邪悪なキャラクターにもなれるんだ」とコービンは語る。

Translated by LIVING YELLOW

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