ショーン・ペンが語る、初めての小説を執筆した理由

ー処女作では真新しいことに挑戦したわけですが、自分の声がどこまで届くか見てみたい気持ちもあったのですか?

たぶん、これをやろうと思ったのは……君が理解できるかどうかはわからないけど、とにかく説明してみるよ。つまり、57年目の人生がやってくると、人というのは「腰を落ち着けて小説でも書いてみるか」となるんだ。かなり自由だし、とにかく最後までやってみる気になるわけだ。反応があろうと、なかろうと構わない。どんなふうに物語を伝えるかという点でも制限を感じないし、読者の好む語り口に迎合する気もない。とにかくやってみようとなるんだ。

ーこの作品の前に小説を書いたことはありますか?

小説を1〜2ページ書き始めたことがあったけど、人生に邪魔されたよ。

ー小説を書いている最中に一番驚いたことは何ですか?

小説を書き始めたとき、つまり今度は人生に邪魔されないと確信したとき、非常に楽しむことができた。もちろん、時には……そうだな、原稿の校閲が始まると技術的なことがたくさん出てきて、ちょっと厄介だった。でも、それ以外は本当に楽しいだけだったから、これを前にやっていないことに驚いたよ。

ーこの作品はこの国の進む方向を切り取ったスナップショットがアイデアだとさっき言っていましたが、サンディフック小学校銃乱射事件が起きたとき、あなたは「俺たちは幸せな国にいるが、孤独と隔離という伝染病も存在する」と、寄稿した記事の中で述べていました。主人公のボブは孤独と隔離の産物もしくは象徴なのですか?

たぶん両方だね。この作品のプロモーションを行っていたとき……これも俺にとっては初体験だったけど、そのときにこの本の説明の仕方をいろいろ考えたんだ。今、君が言ったようなことがこの作品の説明になるとしたら、たぶん現在の環境の危機的状態も関係あると思う。それに対する俺の視点というのは「ボブのような人間はその危機的状況下でどんなふうに踊るんだろう?」だな。

ーボブに共感しますか? 彼は殺人者ですよね。

共感しているという意識があるかはわからないね。ただ、このキャラクターには、彼の生き方なりの倫理基準のようなものが存在していると思う。もちろん、ボブの選択や行動と照らし合わせると、今言った“倫理”と言う言葉は明らかに矛盾するけど、混沌とした社会の中でクリアな視点を持ってしまった者というのは、その社会と対立する結果になってしまうから、その点では共感するよ。

ーボブは複雑な人間で、アメリカは複雑な国。そういうことですかね?

アメリカは何事も単純に行ってしまう複雑な国さ。

ーボブは“大家”に手紙を書きます。「我々は暗殺が必要な国家だ」という内容は明らかに現大統領を思い起こさせます。編集者や発行人はこれにどのような反応を示しましたか? 抵抗や反対はありましたか?

切なかったよ。作品の特性や属性を介して、俺たちはみんな繋がりたいという欲望があると思うんだ。本の中で使われているメタファーが正しくても、正しくなくてもね。とにかく、これは外部から影響を受けて出来上がったがフィクションの中で展開されている話だよ。ただ、ストーリーを伝えるという点では、外部の影響があろうとなかろうと、物語が単体で成立すると思いたい。だって、突き詰めれば、この本はこの国のリーダーシップについて書いているわけじゃなくて、この国の文化のことなんだから。

ー終章の役割を担っている詩の中で、あなたは「笑い声はどこに行ったんだ?」と問いかけています。意識的に暗闇の中でユーモアを見つけようとしたのですか? それとも書いている途中で自然に出てきた言葉ですか?

機動力として必要だったんだと思う。つまり、書くという作業以外ではあまり笑いのない状況で、本を書く必要性を見つけるための機動力が笑いだったってことだ。

「アメリカは何事も単純に行ってしまう複雑な国さ」

ー終章で「そして、この“MeToo”とは何だ、本日の幼児語と呼ばれるものだ」とも書いています。ここで#MeToo運動に触れることが、小説全体とどのように関係しているのですか?

思うに、今はフィクションが作家の考えと見なされる悲しい時代だ。フィクションがフィクションとして読まれていない。それに俺は、陰気な人たちが好きなようにこの小説を分析すればいいと思う。この作品はかっこうの標的さ。でもね、そういう人たちはこの作品の本質を理解していないし、文脈を無視して読んでいると思うんだ。流行に飛びついて、その流行が究極に……人間って安全を求めるし、みんな、寄らば大樹の陰だからね。

俺が今、気に病んでいることは、みんなの心の中に黙示録的予言のようなものが存在していて、過去のレガシーに対して意識が向いていないことだ。そして、フロイトに傾倒したり、憎しみに傾倒したり、物事を停滞させたりと、これからみんなが向こう見ずな行動をするようになることだ。現時点で、この人生で、俺がそんなゲームに参加する必要はないし、俺がやるべきことは、俺が意図的に過去に置いてきたことと、今置き去りにしたいことをしっかり同期させることだよ。

ー過去に置いてきたといえば、最近のインタビューで以前ほど映画製作に情熱を感じないと言っていますよね。映画製作では得られない、フィクション小説を書くこと特有のメリットは何ですか?

共同作業からの解放だね。以前ほど、他の人たちといい演技をすることを楽しめないようになってしまったのさ。

ー将来的にもっと小説を書く予定ですか?

ああ。出版されようが、されまいが……。続けると決めているよ・

ー執筆中に心の平和を感じますか?

ああ、そうだ、感じるよ。クスクス笑うことがあるし、自分から望んで世捨て人っぽい生活をしているから、執筆作業は心の訓練になっている。まあ、簡単に言えば、楽しいってこと。執筆が楽しいんだよ。

Translated by Miki Nakayama

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