ショーン・ペンが語る、初めての小説を執筆した理由

(Photo by Samir Hussein/WireImage)

処女作となる小説『Bob Honey Who Just Do Stuff(原題)』を発表したショーン・ペン。#MeToo運動について、ドナルド・トランプがフィクションではなくファクトとして記述されている部分について、米国では話題沸騰だ。ローリングストーン誌にジョーン・ペン自らがこの処女作について語ってくれた。

どんな小説であれ、処女作というのは大評判となり、作者に注目が集まるものだ。小説『Bob Honey Who Just Do Stuff』の著者であるショーン・ペンの場合、何もしなくても世間はこの作品を話題にする。この作品の抜粋が公表されたあと、まだ発売前だというのに物議をかもし、あっという間にSNSで拡散した。特に#MeToo運動について記述している部分と、ドナルド・トランプがフィクションではなくファクトとして記述されている部分が話題になった。ペンがローリングストーン誌に語ったところによると、例の抜粋は前後の文脈を無視して切り取られたという。「思うに、今はフィクションが作家の意見とみなされる悲しい時代だ。(中略)フィクションは架空の物語なのだから、そのまま鵜呑みにはできないはずだ」と、ペンが述べた。

小説家としてのデビューに自信満々のペンは、いかなる挑発にも一切動じない。それに『Bob Honey Who Just Do Stuff』に対し、確かに人それぞれ様々な意見があるのだが、野心的な作品だということは認めざるを得ない。ペンは風変わりなアメリカ風物録の一遍を生み出した。これを読んだ読者は、ゆったりとした語り口と風刺的なトーンの組み合わせに困惑するかもしれないが、どうも、この奇妙な組み合わせこそが、彼が最初に決めたことのようだ。タイトルとなったキャラクターは悲しい中年男で、いくつもの仕事を掛け持ちしている。エホバの証人に浄化槽を売り、独裁者たちのために花火の手配をし、国外の牢獄からハシド派ユダヤ人の服役囚を偶然救出する。そして、最も大胆な仕事が高齢者の暗殺だ。それも、木槌を使って殺害する。非常に奇妙な時代を反映した、非常に奇妙な時期に出版された、非常に奇妙な本だ。

ペンが気にかけているのは作品の書評ではない。自分自身のレガシーへの影響の方が重要なのだ。『ミスティック・リバー』(2003年)と『ミルク』(2008年)でアカデミー受賞を果たし、彼の世代で最も演技力のある俳優の一人と称される57歳のパフォーマー兼ディレクター兼ライターは、現状に満足することなく、常に自分の業績を向上する方法を模索している。ボブ・ハニーには型通りの宙返りや意味不明な余談が登場するのだが、ヤク中のティーンエイジャー、カリフォルニア州で同性愛を公表した初めての政治家、大統領の暗殺を企てた男などを演じてきたペンの手にかかると、何故か説得力を持ってしまう。ちなみに、ペンはローリングストーン誌のためにメキシコの麻薬密売王ホアキン・グスマンに直接会って取材したこともあった。ペンの処女作が成功した場合、予測不可能な彼の人生劇場に新たな章が加わることになる。

ー以前にフィクションを書いたことがありましたが、あれは映画という形で、初監督作品『インディアン・ランナー』(1991年)がそうでした。この映画はブルース・スプリングスティーンの「ハイウェイ・パトロールマン」がインスピレーションでしたよね。この映画のように、今回の小説のストーリーやキャラクターを生み出すきっかけとなった具体的な経験や事柄はありましたか?

そうだな、物事すべてだと思う。この国を俺の目で見たときのスナップショットって感じだったよ。

ーあの映画では作家ハリー・クルーズが登場しましたが、彼の作品は好きなのですか?

ああ、彼の作品の大ファンだよ。

ークルーズ以外に刺激を受ける作家は他にいますか? 本の裏にテリー・サザーンとトマス・ピンチョンとの比較があったようですが……。

本の裏表紙のその比較は他の人が書いたもので、実は読んだことのない作家もいるってことを理解して欲しい。作家が人に与えられる影響というのは、言葉を自由自在に扱う人がいると気付かせることと、それに気付いた人に言葉を使った自由を体験してみたいと思わせることだ。俺には作家に影響を受けたという記憶がないから、何かを褒めるにしろ、けなすにしろ、それは無意識に吸収した正体のわからないものだったり、間違って吸収した正体不明のものってことだ。誰だって影響されたと認めるのは嫌なはずだよ。

だから、俳優であれ、作家であれ、自分がやっていることは自分以外の何かと関連があるのか、という疑問を常に頭の片隅で考えるわけだ。あるキャラクターを見つけるように自分の中の声に気付いた。でも、それは映画の中にあったものじゃない。だとすると、その声は自分の人生の中にあったわけだ。または、それが本の中にあったものじゃないとすると、やはり自分の人生の中にあったわけだ。時にはその声が誇張されてしまい、自分の文章スタイルに合わないこともある。でも、自分が読んだ作品から得た唯一の重要な影響というのは、ある程度のイマジネーションを注ぎ込んでも良いスタイルが存在すると気付いたことだろうな。そのスタイルを見つけたときに、自分がいるべき場所にいて、自分の内側で聞こえる声をちゃんと聞いていたわけだよ。

ー『Bob Honey Who Just Do Stuff』はもともとオーディオブックだったようですが、小説として出版されました。オーディオ版を書籍にする計画が最初からあったのですか?

いや、なかった。まずは、この作品の土台となる草案が自分の中でまとまっているのかが問題だった。これをクリアしたあとは、本を出版した経験がなかったので、書籍の出版には時間がかかることを理解した。でも、選挙の前に面白いものを出したいと思ったから、オーディオブックとして不完全なバージョンを出すことを選択したのさ。

Translated by Miki Nakayama

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