エレファントカシマシ、表と裏の世界をくぐり抜けてきた宮本浩次の「今」

3月17日に、さいたまスーパーアリーナにて行われたエレカシデビュー30周年記念ツアー『30th ANNIVERSARY TOUR "THE FIGHTING MAN" FINAL』(Photo by Katsumi Omori)

1988年3月21日、エレファントカシマシはシングル「デーデ」とアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』を同時リリースし、デビューを果たした。それから30年が経った、2018年3月17日。エレカシデビュー30周年記念ツアーの締め括りとして『30th ANNIVERSARY TOUR "THE FIGHTING MAN" FINAL』がさいたまスーパーアリーナでおこなわれた。

エレカシのライブ会場に行くと、いつも思うのだが、どんなライブでもオーディエンスに浮かれた感じがない。みんなしっかりと演奏と歌を聴こうとする集中力に溢れている。そういえば、デビュー当時のエレカシのライブで、立ち上がって盛り上がるオーディエンスに「お前ら、座って演奏をちゃんと聴け!」と宮本が喧嘩口調で吹っ掛けたのは有名な逸話。あの頃の宮本がタイムマシーンでこの満員のさいたまスーパーアリーナに来たら、ライブの開始を待つオーディエンスにきっと満足すると思う。それくらいライブをしっかり見ようとする観客の集中力が開演前から溢れていた。

定刻から10分を過ぎて、会場が暗転。ステージの両脇にある大きなスクリーンにデビューからメンバーの写真が時系列に映し出される。宮本浩次(Vo, Gt)、石森敏行(Gt)、冨永義之(Dr)、高緑成治(Ba)、みんな確かに歳をとったけど、変わらないなぁ……そんなことを思っていると、メンバーとサポート演奏陣がステージに登場。この日はホーンセクション、ストリングチームも含め、総勢18人による演奏。18人の分厚い音でインスト曲「3210」を鳴らし、そのまま「RAINBOW」に移行してライヴは幕を開けた。「RAINBOW」は目下のところ最新アルバムのタイトルチューンで、音も言葉も飛び跳ねている最新型にしてエレカシらしいハイテンションソングで、バンドもオーディエンスいきなりのフルスロットルだ。



そして2曲目に初期の名曲にしてライブではお馴染みの「奴隷天国」が炸裂。曲が始まったが、宮本はドラムのトミにもっと速いテンポで叩けと、身体で合図。その合図とともに演奏もさらに熱を帯びていく。しかも天井から色とりどりの風船が舞う。そんな景色のなか、“何笑ってるんだよ 何うなずいんてんだよ おめえだよ そこのそこのそこの おめえだよおめえだよ”という歌詞の部分で宮本が憎たらしいほどにオーディエンスを挑発する。この曲のリリースは93年で当時の宮本は20代後半。舞台はさいたまスーパーアリーナで、宮本も50歳を過ぎたが、20代後半の宮本が持っていたヒリヒリ感は今も健在だし、ある意味凄みが増している感じさえする。

宮本の「エブリバデー、ようこそ!」とお馴染みの挨拶に続いては「今はここが真ん中さ!」。そして、MCを挟む宮本。「ようこそエブリイバデー! 30周年記念ツアーファイナル、さいたまスーパーアリーナ、チケット完売してうれしいです。4人で大事な歌を歌います」と言い、メンバー4人だけで「悲しみの果て」を演奏。説明の必要もないとは思うが、エレカシはデビューしたレコード会社を94年にクビになる。そこから約2年ほど浪人時代を送った。SNSやネット上で、メッセージ、情報、音源も発信できる今と違い、当時はメジャーでの契約を切られてしまうと、シーンから消えてしまうことを意味していた。その2年間、メンバーは生活のためにバイトを与儀なくされるなど、バンドも解散の危機だったと去年の取材で宮本は打ち明けてくれた。そんな時代を経て、エレカシが再びメジャー・シーンに戻ってきたときのシングルが「悲しみの果て/四月の風」だ。この曲が生まれなかったら、エレカシは30周年を迎えることはなかった。そんな「悲しみの果て」を4人で演奏するのは感無量だろう。その音と歌が満員のオーディエンスの心を揺さぶっているのが感じとれた。

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